チャノコカクモンハマキの性フェロモンは(Z)-11-テトラデセニルアセテートを含む4成分から構成される。(Z)-11-テトラデセニルアセテートを大量に処理すると、本種の配偶行動はかく乱され、交尾頻度が著しく低下する。この現象を利用した製剤が性フェロモン剤(交信かく乱剤)である。ところが、チャノコカクモンハマキの一部には、性フェロモン剤の存在下でも通常通りメスに定位し、交尾できるオスが生じる系統が存在する。この系統(R系統)のオス成虫の触角上で発現するトランスクリプトームを、次世代シーケンスを利用して網羅的に解析し、フェロモン受容体候補遺伝子を探索した。また、対照系統(S系統)のトランスクリプトームと比較することで、フェロモン受容体遺伝子の分子レベルの変異と性フェロモン剤抵抗性現象の関係を検証した。その結果、R系統で明瞭に発現量が低下しているフェロモン受容体候補遺伝子が見つかった。受容体発現量の低下に伴うフェロモンの過剰受容効果を免れることで、R系統のオスは性フェロモン剤の影響を受けにくくなっている可能性がある。さらに、この受容体を含むフェロモン受容性を触角電図応答で測定したところ、これまでチャノコカクモンハマキの性フェロモン成分として知られていた(Z)-11-テトラデセニルアセテートだけでなく、全く異なるガ類のフェロモン成分にも電気生理的応答を示すことが判明した。すなわち、ガ類の触角上には受容スペクトルとしても発現量としても様々なタイプのフェロモン受容体が存在することが明らかとなった。このような受容体レベルの変異を含む多様なフェロモン成分認識システムを背景として、性フェロモン剤に対する抵抗性が進化したものと考察された。
|