研究課題/領域番号 |
25871090
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 滋賀大学 |
研究代表者 |
越後 拓也 滋賀大学, 教育学部, 講師 (30614036)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 多孔質結晶性材料 / 除染 / 放射性元素 / 高pH |
研究概要 |
今年度はカンクリナイト巨大単結晶の育成条件最適化と大量合成、Cs+・Sr2+イオン交換実験を行った。申請者のこれまでの研究で、合成ソーダライト粉末とシュウ酸ナトリウム溶液を500 ℃ & 1kbarで14日間加熱すると良質の単結晶が生成することが分かっていたため、出発物質の組成や濃度比を変えて、生成されるカンクリナイト結晶の大きさや質を検討した。出発物質に有機酸塩を入れると大きい結晶が成長することから、シュウ酸ナトリウム溶液に替えて、ギ酸ナトリウム溶液・マロン酸ナトリウム溶液・クエン酸ナトリウム溶液などを用いて実験を行った。その結果、シュウ酸ナトリウム溶液を用いた場合ほどの大きさの単結晶は得られず、シュウ酸イオンが何らかの結晶成長促進作用を持っていることが示唆された。現段階で明確な結論は得られていないが、考えられる理由としては (1) シュウ酸イオンがカンクリナイト構造を組み立てるためのテンプレートとして作用している、もしくは、(2) シュウ酸イオンが他の有機酸イオンよりも熱・圧力に対する安定性が高いため、シュウ酸イオン→炭酸イオンの分解反応速度が遅くなり、炭酸イオンの供給速度が小さくなることで、カンクリナイト結晶の多核発生が抑制されたという2つの可能性が考えられる。また、Cs+・Sr2+イオン交換実験を行った結果、本研究で合成されたカンクリナイト結晶はCs+よりもSr2+イオンをよく交換し、結晶と接する水溶液から効率よく除去することができることが判明した。予備的な結晶構造解析および結合原子価計算の結果、カンクリナイトのエクストラフレームワークサイトの配位環境がCs+よりもSr2+に適していることが明らかになった。Sr2+をより良く交換するのは、結晶化学的な理由によると思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
採択された申請書に記載した研究計画に従い、今年度はカンクリナイト巨大単結晶の育成条件最適化と大量合成、Cs+・Sr2+イオン交換実験を行った。これらの実験の結果は「研究実績の概要」にまとめてあるので参考にされたい。研究成果を簡略にまとめると、(1)カンクリナイト単結晶を育成するには、シュウ酸イオンの存在が重要であること、(2)カンクリナイトの結晶化学的性質がSr2+イオンに適合するため、高アルカリ環境でSr2+をよく交換することが明らかになった。以上の成果は今年度設定した研究課題の回答となるものであり、現在までの達成度としてはおおむね順調に進展している、と言えよう。
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今後の研究の推進方策 |
上述のとおり、カンクリナイト単結晶の育成方法はほぼ確立できたため、今後は単結晶試料を用いてイオン交換実験を行い、反応の異方性を検討する。イオン交換実験を数多く行うため、できるだけ多くの単結晶試料を確保する必要がある。水熱合成炉の数が限られているため、また、最短でも2週間の合成時間が必要なため、確保できる単結晶には限りがあるが、出来るだけ効率よく試料合成を行う予定である。 さらに、合成されたNa含有カンクリナイト単結晶、およびイオン交換実験で得られたCs/Sr含有カンクリナイト単結晶を用いて、単結晶X線回折データに基づく精密な結晶構造解析を行う。本研究で対象とするようなNaに富むカンクリナイトの結晶構造は精密に解析されておらず、粉末X線回折法およびリートベルト法による研究のみである (Hackbarth et al. 1999)。粉末X線回折データによる結晶構造解析では、アルカリイオンサイトの正確な大きさやアルカリイオンに配位する水分子および炭酸イオンの分布を定量的に評価することは出来ない。また、粉末試料の化学分析では、反応しきれていない出発物質や、カンクリナイト以外の副生成物が混入している可能性を排除できず、正確な化学組成を決定することが難しい。本研究課題では、単結晶試料の化学組成をEPMA-WDSで正確に決定し、水分子や炭酸イオンの濃度を熱重量-質量分析 (TG-MS) で決定することで、Al/Siの秩序度やアルカリイオンサイトにおける席占有率なども含めた精密な結晶構造解析を行い、カンクリナイト構造におけるCs+/Sr2+イオンの席選択性を定量的に解析する。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度は海外での実験や会議に参加していないため、そのための旅費を使う必要がなかった。そのため、旅費の支出が計画よりも低く抑えられた。加えて、実験の消耗品として使う金チューブが予想よりも多く再利用できたため、実験費用も計画より低く抑えられた。以上の理由のため、次年度使用額が生じた。 今年度は9月にヨハネスブルグ(南アフリカ)で開催される国際鉱物学連合の総会(International Mienralogical Association: IMA Meeting)に参加するため、昨年度よりも多くの旅費が必要になる。また、合成された試料の分析及び解析のため、つくば市の産業技術総合研究所や物質・材料研究機構に出張する必要があるため、より多くの旅費が必要になる。昨年度からの継続分はこうした出張に使用するとともに、より多くの合成実験を行うことで無駄なく使用する予定である。
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