本研究では、ニホンアカガエルの卵塊の調査から、カエル類の生息環境と農業農村整備の影響を多角的に評価する手法の構築に向けて、卵の安定同位体比の予備分析、卵塊の空間分布の予備解析、水田域での卵塊調査と環境指標間の関係解析、研究全体のとりまとめに取り組んでいる。このうち、今年度は水田域での卵塊調査と環境指標間の関係解析を行うとともに、研究全体をとりまとめた。 具体的な結果として、茨城県・栃木県において、前年度から継続して14地区で卵塊の調査を実施した。各地区では、水田の畦畔を歩きながら、卵塊の位置と数を地図に記録し、卵をサンプリングした。2年間の調査結果から、卵塊が高密度の地区ほど産卵開始日が早く、産卵期間が長かった。圃場整備済みの地区(産卵可能な水辺が存在しにくい)では、ため池などの産卵適地がある場合には産卵開始が早かったものの、多くの地区では水田の灌漑開始とともに産卵が行われていた。 乾田化に伴う圃場の乾湿がカエル類に与える影響をより広域的に明らかにするため、人工衛星Landsat 7 ETM+の中間赤外バンドの反射強度から非灌漑期の圃場の乾湿を表す「湛水指数」を求め、現地の状況およびカエル類の分布との関連を解析した。対象地は茨城県桜川中流域の116地点とし、ニホンアカガエルに加えてトウキョウダルマガエルとシュレーゲルアオガエルを対象種とした。解析の結果、湛水指数は圃場の乾湿の相対的な指標として利用できること、圃場の乾湿がカエル3種の分布に影響することが確認された。 卵の炭素・窒素安定同位体比を計測し、地区間で比較した。同位体比の値から親ガエルを「水田に生息していた個体」、「樹林に生息していた個体」、「耕作放棄地に生息していた個体」に区分した結果、各区分の構成比は地区の立地環境によって異なることが昨年度と同様に確認された。
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