バイオマス変換から生じるエタノール廃液やメタン発酵消化液等の液体有機質資材の農地還元利用は,コスト削減や肥料成分の有効利用の観点から有望であるが,それらの資材の水田への施用は,水田土壌からの温室効果ガスであるメタンの発生量を増加させる懸念がある.本研究の目的は,メタン発酵消化液やエタノール廃液などの液体有機質資材の水田における農地還元利用が温室効果ガス排出に及ぼす影響を解明することである。 平成25年度は,①各種液体有機質資材の水田土壌でのメタン生成ポテンシャルの測定,②チャンバ法によるガスフラックス測定および湛水下の土壌に存在するガス(気泡および溶存ガス)の採取が可能なガス透過性シリコンチューブを用いたガス採取装置による土壌ガス濃度モニタリングの試行,③水田土壌からの温室効果ガス発生量を含めた,エタノール製造,メタン発酵システムの温室効果ガス排出量評価を行うためのシステム範囲の設定や使用する排出原単位の決定およびエタノール製造やメタン発酵技術のインベントリーデータ(エネルギー消費量,薬品使用量等)の収集を行った。 その結果、エタノール廃液のメタン生成ポテンシャルは非常に高かったのに対して、メタン発酵消化液は種類によらずメタン生成ポテンシャルは低かった。そのことから、エタノール廃液を水田に農地還元した場合、水田からのメタン生成量が増加することが懸念される一方、メタン発酵消化液は、メタン発酵過程において有機物の分解を経たものであるため、それ由来のメタン生成量は少ないことが示唆された。メタン生成ポテンシャルと易分解性有機物量の指標であるBOD、CODCrなどとの間に、明確な関係はみられなかった。 また、チャンバ法によるメタンのガスフラックスと土壌中のメタンガス濃度の季節変動はおおむね一致しており、土壌中のメタンガス濃度を測定することにより、水田からのメタン発生量を評価できる可能性が示された。
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