【目的】乳腺は妊娠末期から血中ビタミンE(VE)を初乳へ多量移行させる。母体はVEを多量に失う結果、周産期疾病の発症リスクが高まると考えられる。申請者はウシ乳腺において、VE特異的輸送タンパクαTTPの発現を新規に見出しており、本年度は、昨年度構築したin vitroウシ乳腺モデルおよび確立した乳腺バイオプシー法を駆使して、このαTTPの乳腺における発現特性について精査することを目的とした。 【26年度成果】①ウシ乳腺上皮細胞におけるαTTPの発現が催乳性ホルモン刺激分化誘導により経日的に増加したことから、αTTP発現が内分泌的制御を受けて、乳腺機能分化と関連することが示唆された。②低侵襲的かつ連続的な乳腺バイオプシー法により周産期乳牛から得た乳腺組織を用いて、αTTP発現の解析を行った結果、クローズアップ期から分娩・初乳分泌期、そして泌乳最盛期にかけてαTTPの発現が漸減する個体と、分娩・初乳分泌期に発現が一過的に亢進する個体の2群に分類された。分娩・初乳分泌期の血中VE濃度の低下レベルには明瞭な群間差は確認できなかったが、特に分娩・初乳分泌期に発現が一過的に亢進する群では、分娩後不良になる傾向が強かった。in vivoにおいて乳腺におけるαTTPの発現はホルモンおよび栄養素バランスにより、複雑に制御されている可能性があり、疾病リスクとの関連性について、更なる包括的な検討が必要である。 【期間全体成果および意義、重要性】新たに構築したin vitroウシ乳腺モデルおよび乳腺バイオプシーを用いた周産期試験法により、乳腺におけるαTTPの発現特性に関する新規知見が得られた。この知見は周産期疾病リスクの分子メカニズムの解明につながり、効果的な周産期疾病予防法の開発に寄与するだけでなく、哺乳類の初乳合成機序を解き明かす上で極めて有意義なものになると期待できる。
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