研究実績の概要 |
本研究の目的は,二年生テンサイの低温要求性の分子機構を解明することである.昨年度は, AFLP法に基づくDNA多型の探索を試みた結果,BvBTC1と高い相同性を示す遺伝子領域が単離された.BvBTC1は,開花に春化を必要としない極早咲きの一年生を制御する遺伝子である.しかしこの遺伝子が二年生テンサイの低温要求性(抽苔耐性)へどの程度関与しているのか明らかでない.そこで本年度はBvBTC1の抽苔耐性への関与を調査した. ①遺伝変異の調査:遺伝的背景が多様な二年生15系統および一年生3系統のcDNAを用いてBvBTC1の部分シーケンスを決定したところ,4種類のハプロタイプ(a, d, f, g)の存在が確認された.dは一年生にのみに検出されたため,二年生には3種類のハプロタイプの発現が明らかになった. ②遺伝変異と抽苔耐性との関連性:3種類のハプロタイプ(a, f, g)を簡便検出できるCAPSマーカーを作成して,遺伝的固定化の進んだ35系統207個体の遺伝子型を解析した結果,上記の3種類のハプロタイプの組合せによって生じる6種類の遺伝子型が確認された.抽苔耐性が強い系統ほど,遺伝子型aaの頻度が高く(強78%,中53%,弱29%),fおよびgを持つ遺伝子型の頻度が低かった(p<0.01). ③遺伝変異と抽苔表現型との関連性:遺伝子型の分離が想定される7系統210個体を用いて,前述と同様の手法で遺伝子型と抽苔表現型(抽苔または未抽苔)との関連を推定した結果,各系統とも同一系統内で抽苔表現型と遺伝子型の変異が確認された.同一系統内の未抽苔個体と抽苔個体の遺伝子型頻度は各系統で異なり(p<0.01),②の結果と同様,未抽苔個体ほどハプロタイプaを持つ遺伝子型割合が高く,fおよびgの遺伝子型の割合が少ない傾向を示した. 以上より,BvBTC1のハプロタイプが二年生テンサイの低温要求性に大きな影響を及ぼしている可能性が明らかになった.
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