研究実績の概要 |
本研究の目的は,二年生テンサイの低温要求性の分子機構を解明することである.本研究の初年目には,AFLP法に基づく1024種類のプライマーペアの中から低温要求性の程度に関連する多型を見出し,多型バンドのクローニングにより,BvBTC1と高い相同性を示す遺伝子領域の単離に至った.BvBTC1は,一年生と二年生を制御するマスター遺伝子として報告されている遺伝子であるが,二年生テンサイの低温要求性(抽苔耐性)へどの程度関与しているのか明らかでなかった.
そこで,次年度には当年抽苔しやすい抽苔耐性が弱い日本の育種系統にどのようなBvBTC1のハプロタイプが含まれるのかをcDNAシーケンスにより解析したところ,世界の栽培種がもつ二年生特有のハプロタイプaのほかに一年生野生種で確認されている2種類のハプロタイプfおよびgが含まれることを明らかにした.また,簡易判別可能なCAPSマーカーを作成して,過去の特性検定により抽苔耐性が“強”~“弱”であることが明らかな,遺伝的にも固定化が進んだ35系統207個体のBTC1遺伝子型を解析して,抽苔耐性が強い系統ほど,遺伝子型aaの頻度が高く(強78%, 中53%, 弱29%),ハプロタイプfおよびgを持つ遺伝子型の頻度が低いことなどを明らかにした.
そして,最終年度には,その現象を分離世代で確認するために,抽苔発生の少ない遺伝子型aa のテンサイ系統と抽苔発生の多い遺伝子型ggのテンサイ系統の分離世代(F3系統群およびF6系統群)を育成して,その当年抽苔の変異について調査して,遺伝子型aaの抽苔率(F3, 16.8%; F6, 49.3%)が,遺伝子型ag(F3, 61.0%, F6, 79.2%)やgg(F3, 92.0%, F6, 92.1%)と比べて低いことを明らかにして,BvBTC1が二年生テンサイの低温要求性には大きな影響を及ぼす要因であることを突き止めた.
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