ブタの脂肪は生産性や食味性に関わる食肉の重要な構成要素である。そのため、ブタ脂肪細胞分化の制御機構の理解は、おいしい豚肉を効率的に生産するためのカギとなる。近年、血中遊離脂肪酸がGタンパク共役型受容体(GPCR)を介して脂肪細胞分化等に関わることが報告された。そこで本研究は、ブタ脂肪前駆細胞において発現するGPCR遺伝子を同定し、脂肪細胞分化に関わるか検討することを目的とした。 次世代シーケンサーを用いて、ブタ皮下脂肪由来脂肪前駆細胞(PSPA: Porcine Subcutaneous Pre-Adipocyte)で発現するGPCR遺伝子の同定を試みた。その結果、10種類のGPCR遺伝子がPSPAで発現することを明らかにした。ブタGPCR遺伝子のノックダウン効果を検討するため、10遺伝子それぞれについて特異的なsiRNAを作製し、PSPAへトランスフェクションした後、分化誘導処理した。全10種類のGPCR遺伝子のうち3種類のGPCR遺伝子ノックダウンに関して、脂肪分化マーカーであるPPARg2遺伝子発現量、ならびに、脂質合成量の指標となるトリグリセライド含量が減少することを明らかにした。さらに、マイクロアレイ発現量解析を行い、3種類のGPCR遺伝子ノックダウンで発現量変動を示した遺伝子を同定することにより、どのような経路で脂肪細胞分化および脂質合成量の制御が影響を受けたか検討した。その結果、3種類のGPCR遺伝子ノックダウンに共通して、脂質合成のカギを握るPPARパスウェイに属する遺伝子群の発現量が減少した。一方、細胞接着ならびに細胞増殖に関連する遺伝子群の発現量は上昇した。 本研究で同定したブタ脂肪細胞で発現するGPCR遺伝子は、脂質合成および細胞の増殖性に関わる分子経路を制御することで、脂肪細胞分化ならびに脂質合成量の調節に寄与することが示唆された。
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