研究課題
若手研究(B)
大型加速器施設の放射線安全設計、加速器を用いたがん治療、半導体ソフトエラー現象の評価・解明等の放射線応用分野では、加速粒子と標的核(人体や加速器を構成する原子核)との相互作用に関して、詳細かつ正確な情報が求められる。特に応用例の多い入射エネルギーが数MeV/uから数GeV/uの中間エネルギー領域では、標的核が破壊される核破砕反応が支配的となり、多くの中性子や陽子などと共に、α粒子や重粒子などの複合粒子(フラグメント)が放出される。粒子線による放射化を評価するためには核反応で放出されるすべての粒子の生成量を計算する必要があり、照射効果や損傷などのミクロな現象を調べるためには、生成量だけでなく放出角度やエネルギー情報の相関を包括的にシミュレーションする必要がある。本年度は、非平衡過程からの粒子放出を核内カスケードモデル(INCL4.6)で模擬し、平衡過程からの粒子放出を統計マルチフラグメンテーションモデル(SMM)と一般化蒸発モデル(GEM)を組み合わせたモデルで模擬する2段階核反応モデルを開発し、国際原子力機関の核反応実験データベースで利用可能な数100 MeVから数GeVの陽子入射反応に対する生成二重微分断面積データと比較することで、開発したモデルの精度検証を行った。炭素より重いクラスター放出については、現状のモデルで実験値のスペクトル形状を良く再現できることが分かった。一方、炭素より軽いクラスター放出については、実験値のスペクトルの高エネルギー成分をモデルが過大評価することが分かった。この問題を解決するため、非平衡過程からのクラスター生成を記述する表面コアレッセンスモデルにおいて結合させる核子間の相対運動量に上限値(Δp<240 MeV/c)を設け、高エネルギー成分を抑制させることにより、実験値の再現性を向上させることができた。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、大型加速器施設の放射線安全設計、加速器を用いたがん治療、原子力発電所から排出される長寿命放射性廃棄物の核変換処理技術、半導体ソフトエラーの評価・解明等の放射線応用分野で利用される放射線輸送シミュレーション技術の高度化のため、その基盤となる数10 MeVから数GeVの中高エネルギー核破砕反応で放出されるあらゆる粒子とその動力学的相関を統一的にかつ微視的に記述できる核反応モデルを開発すると共に、その精度検証を行い、汎用粒子・重イオン輸送計算コードPHITSに組み込み、被ばく線量評価、材料の劣化・損傷や照射効果に対するフラグメントや多粒子放出の影響を明らかにすることを目的としているが、本年度行った成果によって、入射エネルギーが数100 MeVから数GeVの核反応に対して広い標的範囲の実験値を再現する核反応モデルを開発することができた。また開発しているモデルがイベントジェネレータを利用していることから放出される粒子とその動力学的相関を統一的にかつ微視的に記述することができる。以上の理由により、研究の目的はおおむね達成されている。
今後は、100 MeV以下の低エネルギー入射反応に対しても適用可能なモデルにするため、標的内核子のピックアップ反応や標的核ポテンシャルによる屈折の効果を導入する。また、開発しているモデルは陽子入射反応の実験データを用いて最適化されているが、中性子や複合粒子入射反応に適用し、モデルの妥当性やその適用範囲を調査する。中性子入射反応については二重微分断面積の測定データが殆どないため、放射化断面積との比較で検証を行う。開発したコードを粒子・重粒子輸送計算コードPHITSに組み込み、申請者が従事している大強度陽子加速器施設(J-PARC)の放射線安全評価計算や中高エネルギー陽子・中性子、重粒子線による被ばく線量評価や半導体機器の照射効果、材料の劣化・損傷等、様々な条件の粒子輸送シミュレーションを行うことによって、これらの現象に対するフラグメントや多粒子放出の影響を明らかにする。
J-PARCハドロン実験施設の放射線漏えい事故の対応のため、国際会議等の出張ができなかった。学会発表、国際会議等の出張に使用する。
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Radiation Protection Dosimetry
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10.1093/rpd/nct334