フラグメント生成を考慮した多粒子相関シミュレーションとその応用

2014 年度 実施状況報告書

• 研究課題/領域番号: 25871111
• 研究機関: 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構
• 研究代表者: 萩原 雅之 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 放射線科学センター, 助教 (10450363)
• 研究期間 (年度): 2013-04-01 – 2017-03-31
• キーワード: 核反応 / 核データ / 二重微分断面積 / フラグメント / 原子核工学 / イベントジェネレータ / 核内カスケード模型 / 蒸発模型

研究実績の概要

大型加速器施設の放射線安全設計、加速器を用いたがん治療、半導体ソフトエラー現象の評価・解明等の放射線応用分野では、中高エネルギー領域の加速粒子と標的核(人体や加速器を構成する原子核)との相互作用に関して、詳細かつ正確な情報が求められる。粒子線による放射化を評価するためには核反応で放出されるすべての粒子の生成量を計算する必要があり、照射効果や損傷などのミクロな現象を調べるためには、生成量だけでなく放出角度やエネルギー情報の相関を包括的にシミュレーションする必要がある。
昨年度までに、中高エネルギー領域の核反応を記述するイベントジェネレータとして、非平衡過程からの粒子放出を核内カスケードモデル（INCL4.6）で模擬し、平衡過程からの粒子放出を統計マルチフラグメンテーションモデル（SMM）と一般化蒸発モデル（GEM）を組み合わせたモデルで模擬するモデルを構築し、数100 MeVから数GeVの陽子入射反応に対する生成二重微分断面積の実験データを基に、モデルのフラグメント生成過程の記述の改良を行った。非平衡過程からのフラグメント生成を記述する表面コアレッセンスモデルにおいて結合させる核子間の相対運動量に上限値（Δp<240 MeV/c）を導入することにより、数100 MeVから数GeVまでの幅広い入射エネルギー領域において、実験値に対する再現性を向上させることができた。
今年度は、核内カスケードモデル（INCL4.6）を低エネルギー領域の陽子入射フラグメント放出反応に対応させるため、新たにPick up反応を組み込み、反応のQ値を補正することで、数10 MeV領域の実験値の再現性を向上させることができ、開発したモデルの適用範囲を数10MeVから数GeVに拡張することができた。

現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

大型加速器施設の放射線安全設計、加速器を用いたがん治療、半導体ソフトエラー現象の評価・解明等の放射線応用分野では、加速粒子と標的核(人体や加速器を構成する原子核)との相互作用に関して、詳細かつ正確な情報が求められる。特に応用例の多い入射エネルギーが数MeV/uから数GeV/uの中間エネルギー領域では、標的核が破壊される核破砕反応が支配的となり、多くの中性子や陽子と共に、α粒子やIMF（Intermediate mass fragment）などの複合粒子が放出される。高エネルギー粒子線による放射化を評価するためには多種多様な核反応で放出されるあらゆる放射性同位体の生成量を計算する必要があり、照射効果や損傷などのミクロな現象を調べるためには、放出される粒子の生成量だけでなく放出角度やエネルギー情報の相関もシミュレーションする必要がある。本研究では、中高エネルギー領域の核反応で放出される多種多様な粒子とその動力学的相関を統一的にかつ微視的に記述できるイベントジェネレータを構築し、放射線応用分野で必要とされている粒子・重粒子輸送シミュレーションコードの高精度化に資することを目的としている。
本年度行った成果によって、入射エネルギーが数10 MeVから数GeVの核反応に対して広い標的範囲の実験値を再現する核反応モデルを開発することができた。また開発しているモデルがイベントジェネレータを利用していることから放出される粒子とその動力学的相関を統一的にかつ微視的に記述できる。
以上の理由により、研究の目的はおおむね達成されている。

今後の研究の推進方策

本研究で開発したモデルは陽子入射反応の実験データを用いて最適化されているが、今後は中性子や重イオン入射反応においても、モデルの妥当性やその適用範囲を調査する。中性子や重イオン入射反応については二重微分断面積の測定データが殆どないため、反応断面積や放射化断面積との比較で検証を行う。
開発したコードを粒子・重粒子輸送計算コードPHITSに組み込み、申請者が従事している大強度陽子加速器施設（J-PARC）の放射線安全評価計算や中高エネルギー陽子・中性子、重粒子線による被ばく線量評価や半導体機器の照射効果、材料の劣化・損傷等、様々な条件の粒子輸送シミュレーションを行うことによって、これらの現象に対するフラグメントや多粒子放出の影響を明らかにする。

次年度使用額が生じた理由

J-PARCハドロン実験施設の放射能漏えい事象の対応のため、国際会議の出張ができなかった。

次年度使用額の使用計画

学会発表、国際会議等の出張に使用する。

研究成果

• [雑誌論文] Recent Progress in Experimental and Theoretical Studies of Proton-induced Fragment Cross Section at Intermediate Energies (2014)
  • 著者名/発表者名: M. HAGIWARA, T. Sanami, D, Mancusi, A. Boudard, J. Cugnon, S. Leray, M. Baba
  • 雑誌名: Proceedings of the 2013 Symposium on Nuclear Data; November 14-15, 2013, Research Institute of Nuclear Engineering University of Fukui, Tsuruga, Fukui, Japan 巻: JAEA-Conf 2014-002 ページ: 63-68
  • DOI: 10.11484/jaea-conf-2014-002
  • 査読あり / オープンアクセス
• [雑誌論文] Measurements of Cross Sections for Neutron-induced Reactions on Chromium and Yttrium Targets at 197 MeV (2014)
  • 著者名/発表者名: S. Sekimoto, H. Suzuki, H. Yashima, K. Ninomiya, Y. Kasamatsu, T. Shima, N. Takahashi, A. Shinohara, H. Matsumura, M. Hagiwara, K. Nishiizumi, M. W. Caffee, S. Shibata
  • 雑誌名: Nuclear Data Sheets 巻: 119 ページ: 197-200
  • DOI: 10.1016/j.nds.2014.08.055
  • 査読あり
• [雑誌論文] Target Mass Dependency of Light Mass Fragment Energy Spectra for Intermediate Energy Proton Induced Reactions (2014)
  • 著者名/発表者名: T. Sanami, M. Hagiwara
  • 雑誌名: Nuclear Data Sheets 巻: 119 ページ: 241-244
  • DOI: 10.1016/j.nds.2014.08.055
  • 査読あり
• [雑誌論文] Response measurement of various neutron dose equivalent monitors in 134-387 MeV neutron fields (2014)
  • 著者名/発表者名: Yoshihiro Nakane, Masayuki Hagiwara, Yosuke Iwamoto, Hiroshi Iwase, Daiki Satoh, Tatsuhiko Sato, Hiroshi Yashima, Tetsuro Matsumoto, Akihiko Masuda, Tomoya Nunomiya, Yukio Sakamoto, Hiroshi Nakashima, Atsushi Tamii, Kichiji Hatanaka, Takashi Nakamura
  • 雑誌名: Progress in Nuclear Science and Technology 巻: 4 ページ: 704-708
  • DOI: 10.15669/pnst.4.704
  • 査読あり / オープンアクセス
• [雑誌論文] Measurement of neutron energy spectra behind shields for quasi-monoenergetic neutrons generated by 246-MeV and 389-MeV protons using a Bonner sphere spectrometer (2014)
  • 著者名/発表者名: Tetsuro Matsumoto, Akihiko Masuda, Jun Nishiyama, Hideki Harano, Hiroshi Iwase, Yosuke Iwamoto, Masayuki Hagiwara, Daiki Satoh, Hiroshi Yashima, Yoshihiro Nakane, Hiroshi Nakashima, Yukio Sakamoto, Christian Pioch, Vladimir Mares, Atsushi Tamii, Kichiji Hatanaka, Takashi Nakamura
  • 雑誌名: Progress in Nuclear Science and Technology 巻: 4 ページ: 332-336
  • DOI: 10.15669/pnst.4.332
  • 査読あり / オープンアクセス
• [雑誌論文] Measurement of gamma rays under the high-energy p-Li neutron fields in RCNP (2014)
  • 著者名/発表者名: So Kamada, Masashi Takada, Masayuki Hagiwara, Yosuke Iwamoto, Tatsushi Shima, Atsushi Tamii, Kichiji Hatanaka
  • 雑誌名: Progress in Nuclear Science and Technology 巻: 4 ページ: 745-747
  • DOI: 10.15669/pnst.4.745
  • 査読あり / オープンアクセス
• [雑誌論文] Characterization of quasi-monoenergetic neutron source using 137, 200, 246 and 389 MeV 7Li(p,n) reactions (2014)
  • 著者名/発表者名: Yosuke Iwamoto, Masayuki Hagiwara, Hiroshi Iwase, Hiroshi Yashima, Daiki Satoh, Tetsuro Matsumoto, Akihiko Masuda, Christian Pioch, Vladimir Mares, Tatsushi Shima, Atsushi Tamii, Kichiji Hatanaka, Takashi Nakamura
  • 雑誌名: Progress in Nuclear Science and Technology 巻: 4 ページ: 657-660
  • DOI: 10.15669/pnst.4.657
  • 査読あり / オープンアクセス
• [雑誌論文] Shielding benchmark experiment using hundreds of MeV quasi-monoenergetic neutron source by a large organic scintillator (2014)
  • 著者名/発表者名: Masayuki Hagiwara, Hiroshi Iwase, Yosuke Iwamoto, Daiki Satoh, Tetsuro Matsumoto, Akihiko Masuda, Hiroshi Yashima, Yoshihiro Nakane, Hiroshi Nakashima, Yukio Sakamoto, Atsushi Tamii, Kichiji Hatanaka, Takashi Nakamura
  • 雑誌名: Progress in Nuclear Science and Technology 巻: 4 ページ: 327-331
  • DOI: 10.15669/pnst.4.327
  • 査読あり / オープンアクセス
• [雑誌論文] New capabilities of the Liege intranuclear-cascade model for particle-transport codes (2014)
  • 著者名/発表者名: D. Mancusi, A. Boudard, J. Cugnon, J-C. David, M. Hagiwara, A. Leprince, S. Leray
  • 雑誌名: Proceedings of SNA + MC 2013 - Joint International Conference on Supercomputing in Nuclear Applications + Monte Carlo 2106 巻: SNA + MC 2013 ページ: 02106-02114
  • DOI: 10.1051/snamc/201402106
  • 査読あり
• [学会発表] 134MeVおよび184MeV単色中性子によるCu,Nb標的の核反応 (2014)
  • 著者名/発表者名: 二宮和彦
  • 学会等名: 2014日本放射化学会年会・第58回放射化学討論会
  • 発表場所: 名古屋大学東山キャンパス工学部IB電子情報館
  • 年月日: 2014-09-11 – 2014-09-13
• [学会発表] 核内カスケード模型によるフラグメント生成過程の記述 (2014)
  • 著者名/発表者名: 萩原雅之
  • 学会等名: 日本原子力学会2014年秋の大会
  • 発表場所: 京都大学 吉田キャンパス
  • 年月日: 2014-09-08 – 2014-09-10