生物規範型の学習則であるTacit learningを用いて、筋電前腕義手のデバイス開発及び制御アルゴリズムの開発を行った。これまでの筋電前腕義手は手首関節に自由度を持たないものが多く、手の向きを制御する際に主に残存する肩の自由度を用いて制御していたため、使用者の負担が多かった。開発した義手では手首の回旋に自由度を与え、残存する肩・肘の動きにTacit learningを用いて手首の動作を適応させることで、使用者は特に手首の回旋を意識することなく手の姿勢を意図通りに操ることのできるシステムの開発に成功した。 提案したシステムの有効性を検証するため、普段から筋電義手を使用されている10名の患者に対し臨床試験を行った。その結果、ほぼ全員で提案するシステムを使用することで手の姿勢を制御する際の消費エネルギが減少することが示された。エネルギ消費は義手を使用している動作をモーションキャプチャで取得し、筋活動を推定することで行った。 また提案した義手を臨床試験に参加した患者に10分程度使っていただいて慣れていただいた後、角度の違う数種類の引き出しの取っ手やダイヤルの回転などの日常生活に直結する動作を行っていただき、患者は手の姿勢を強く意識することなく引き出しの開け閉めやダイヤルの回転を行うことができることが示された。 これにより提案システムが、患者の動作意図と実際の手首の動きを残存する肩肘の動作を通してうまく推定できていることが示された。この結果は生物の制御原理が順を追って複雑さを増すNeuro-Synergy Systemを構築していることの重要な証拠にもなっている。
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