研究課題/領域番号 |
25871114
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
南谷 英美 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (00457003)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 近藤効果 / 数値くりこみ群 / 第一原理電子状態計算 / 分子 |
研究概要 |
今年度は分子における興味深い近藤効果が発現する系としてPb(111)基板上のMnPc分子に対する研究を進めた。第一原理電子状態計算の結果より、孤立分子ではS=3/2のスピン状態を持つMnPcはPb基板への吸着時に基板からの電荷移動によってS=1へとスピン状態が変化することが判明した。電荷移動によってスピン状態が変化する原因は、リガンドπ軌道における不対電子の増加に加え、その不対電子によるスピンがMn d軌道由来のスピンと反強磁性的に結合するためである。 通常、これらの局在スピン間の磁気的な結合は近藤効果と競合し、近藤温度を低下させるにも関わらず、MnPc/Pb(111)では100Kオーダーの近藤温度を持つ近藤効果が発現されることがこれまでに報告されている。その詳細を議論するために、多軌道かつ軌道間に複雑な磁気相関があるシステムを取り扱うことが可能な、数値くりこみ群のシミュレーションプログラムをJava言語を用いて作成した。 また、表面における磁気異方性に関して、Ag(111)表面上のCo薄膜に対する研究を開始した。Ag(111)面上のCoについては、ナノアイランドが形成されること、またそのナノアイランドの表面にモアレパターンが観測され、モアレパターンの強いアイランドと弱いアイランドでは外部磁場に対する磁化の応答が異なることがスピン偏極STMによる実験から報告されている。そこで、構造と磁気異方性の関係を探るモデルシステムであると考え、第一原理電子状態を用いた研究を進行中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
吸着に伴う分子磁性の変化と近藤効果の関連については、MnPc/Pb(111)のシステムに対して第一原理計算による議論の部分が完了し、該当する有効模型の類推とその解析の段階に進みつつある。また磁気異方性についても、Ag(111)面上のCo薄膜をターゲットとした研究を開始しているため、交付申請書に記載したスケジュールに沿って順調に研究が進展しているものと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
MnPc/Pb(111)については、数値くりこみ群に基づく近藤効果の解析を進めていく。特にこの系では、S=1のスピン状態が近藤効果を生じておりUnderscreenedタイプの近藤効果が期待されるため、その可能性を探る。Underscreenedの近藤効果は通常のS=1/2で現れる近藤効果に比べ、Fermi準位近傍に現れるピークが先鋭化することや、磁場に対して敏感に応答することが知られているため、そのような特徴が現れるかを中心に解析する。また、リガンドとMn中心のスピン結合という複数の局在スピンが結合したシステムであることを利用して、分子吸着による新しいリガンドの導入やSTMチップによるポイントコンタクト形成を通じてスイッチング機能を発現しうる可能性を探る。 Ag(111)面上のCo薄膜については、モアレパターンと磁気異方性に相関が生じる原因として、積層欠陥を考え、積層欠陥がモアレパターン並びに磁気異方性にどのような影響をもたらすかを、第一原理電子状態計算に基づき議論する。
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