植物において、RNAサイレンシングによる発現抑制機構が遺伝子組換による特定遺伝子の高発現を妨げていた。本研究の目的は、RNAサイレンシングによって抑制された遺伝子の発現を復帰させることができる新規化合物を同定し、それらの化合物のRNAサイレンシング経路内での作用点を明らかにすることである。一次スクリーニングとして、保有する約6千種の化合物をGFP-OLE融合タンパク質の遺伝子がサイレンシングしたシロイヌナズナに添加後、UV照射下で撮影し、GFP蛍光を復帰させるケミカルを探索した。さらに二次スクリーニングも行い、4つのケミカルを候補化合物として選んだ。2週間、候補ケミカルを含んだ培地で生育させた植物を観察したところ、無処理植物に比べて、形態異常や白化がみられる傾向を確認した。ウエスタンブロットによるOLE-GFPのタンパク質を検出したところ、候補ケミカル処理によるタンパク質の蓄積増加を確認した。候補ケミカルのRNAサイレンシングへの影響程度を知るために、ノーザンブロットによるOLE-GFPのmRNAおよびGFPのsiRNAの検出をおこなった。その結果、ひとつの特定のケミカル(ケミカルA)処理によって、mRNAの蓄積の増加だけではなくRNAサイレンシングの指標であるsiRNAの蓄積も増加することがわかった。ウイルスがもつサイレンシング抑制因子の多くは、siRNAに結合し安定化させる一方で、RNAサイレンシングを抑制することがわかっている。ケミカルAによる現象はサイレンシング抑制因子の作用に似ている。したがって、siRNAに結合する因子がケミカルAの標的となっている可能性が示唆された。
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