深紫外共鳴ラマン散乱を利用すれば、非染色細胞の核酸塩基を選択的に測定できる。しかし、顕微鏡観察では、深紫外光照射による分子の化学変化により試料が劣化し、高照射量を要する高解像度・高信号対雑音比での測定ができなかった。 当該課題では、細胞内核酸塩基の深紫外光照射劣化の抑制法、及び、高い検出・励起効率の深紫外ラマン散乱顕微鏡を開発し、高解像度・高信号対雑音比での細胞内核酸分布測定を実現した。深紫外光照射劣化の抑制には、希土類イオン、不活性ガスが有効であることを見出した。希土類イオンは、励起分子からエネルギーを奪って放出することにより、励起分子、周辺分子の損傷を防ぐ。不活性ガスは、試料から酸素を圧出することにより、活性酸素種の発生を防ぐ。試料への照射量を減らすためには、高励起・検出効率の深紫外ラマン散乱顕微鏡を開発した。光源は、核酸塩基の共鳴ラマン散乱を高効率で励起できる波長257nmのレーザーを用いた。高検出効率を実現するためには、検出系の光学素子数を減らし、深紫外波長域で低損失な光学素子、高効率な分光器と検出器、高い検出立体角を有する対物レンズを用いた。開発した深紫外ラマン散乱顕微鏡と深紫外光照射劣化の抑制法により、従来の2.5倍の解像度、4.5倍の信号対雑音比で、細胞内核酸の深紫外ラマン散乱イメージングを実現した。 上記の成果の他、紫外光照射下の生体分子の化学変化を測定し、液体窒素冷却下では分子の紫外光照射劣化が常温下に比べて抑制されることを示し、冷却によって細胞内生体分子の深紫外光照射劣化が抑制できる可能性を示した。また、細胞内核酸塩基の深紫外共鳴ラマン散乱の増強法を検討し、深紫外域で低損失であり、水中で安定な金属であるインジウムのナノ粒子により、アデニンの深紫外共鳴ラマン散乱を100倍増強できることを発見し、細胞内核酸塩基を深紫外共鳴ラマン散乱で高感度測定する道を拓いた。
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