研究実績の概要 |
強磁性トポロジカル絶縁体とトポロジカル絶縁体の多層膜を合成し、量子化の特性を調べた。 2nmのCrドープ(Bi,Sb)2Te3と5nmの(Bi,Sb)2Te3薄膜の二層膜を合成しトップゲート構造でキャリアを変化させて磁気輸送特性を調べた。Crドープ由来の異常ホール効果とノンドープ層のホール効果の足し合わせで量子抵抗まで到達することが分かった。前年度までの研究では、Crドープ(Bi,Sb)2Te3単膜では組成とトップゲートでキャリアを完全に制御してもホール抵抗が2Kにおいては3.5kOhmが最大値で量子化することはなかった。しかし、この二層膜では2Kにおいて量子化抵抗:25.8kOhmに到達することが分かった。組成によっては0.5Kではフィリング数n=+1,-1だけではなく、n=0の状態も安定化することが分かった。これは、ランダウ準位n=0のエネルギーがCrドープ(Bi,Sb)2Te3の表面と(Bi,Sb)2Te3の裏面でずれていて、その間にフェルミ準位を調節することで表面と裏面の量子ホール効果がキャンセルする擬スピンホール絶縁体が発現していると解釈できた。 このように、強磁性トポロジカル絶縁体とトポロジカル絶縁体の二層膜によって、単膜では発現しない擬スピンホール絶縁体状態を見いだしたことは、ディラック電子のエッジ電流に基づいたトポロジカル絶縁体のスピンエレクトロニクスの新しい自由度を示し、インパクトの高い研究になったと考える。
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