研究課題/領域番号 |
25871135
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
吉田 崇将 独立行政法人理化学研究所, 脳科学総合研究センター, 研究員 (50525904)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | トップダウン型注意 / 頭部固定型視覚的注意課題 / マウス視覚野 / ネトリンG1 |
研究概要 |
平成25年度は,主にマウス用の頭部固定型視覚的注意課題システムの開発を行った.視覚的注意を頭部固定下の覚醒マウスに惹起するための新しいタスクパラダイムを考案し,それを実現するためのタスク装置をデザインした.従来の方法,例えば5選択反応時間課題では,自由行動下のマウス扱うため皮質神経回路における神経活動のイメージングを同時に行うのは困難であり,さらにマウスの頭部や注視点の位置を制御できないため実際の視覚的入力と行動の結果を厳密に整合することはできなかった.本研究課題ではこれらの問題を解決し,さらにトップダウン注意を再現よく惹起して視覚野表層におけるその入力信号を2光子励起イメージングにより直接記録することを目的としている. 新考案のタスクパラダイムでは,デュアルスポイトを用いた左右舐め分け課題において,関連付け視聴覚刺激を提示し音刺激と視覚刺激が一致するサイドをマウスに判断させるとき,正解のサイドを指示する先行刺激を与えた場合に与えなかった場合と比較して反応速度や正解率が高くなると推測されるが,これを視覚的トップダウン注意の影響と考えて定量的に評価する.また,先行刺激に「明示的」刺激と「非明示的」刺激を用意したとき,明示的刺激が提示された場合にのみトップダウン注意の影響が現れ,非明示的刺激の場合は注意をそらすような逆の影響が現れると推測される.タスク装置の設計は完了し,装置・制御回路および制御プログラムの試作をほぼ完了した.実際のマウスを用いたシステムの実質的な評価は平成26年度に持ち越す. さらに,前頭前皮質から視覚野1層への投射の区画化が欠損するためトップダウン信号の入力が各層へ分散され注意機能が欠損もしくは減弱すると考えられるネトリンG1大脳皮質特異的ノックアウトマウスの作製をネトリンG1のfloxマウスとEmx1-Creマウスを用いて行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の研究実施計画では,実際のマウスを用いたシステムの評価まで平成25年度に行う予定であったが実現できなかった.理由は,本研究課題以外のタスクに多くのリソースが配分されたため,課題提案時に本研究課題のために設定したエフォートで実施できなかったためである.ただ,システムの評価実験は相当の時間を要すると想定しており研究実施計画の中でも長期間のスケジュールを設定しているのでこの遅れは想定範囲内に収まる. ネトリンG1大脳皮質特異的欠損マウスの作製は,当初は交配繁殖を予定していたが人工授精に切り替えた.全3世代の工程のうち2世代までを完了した.
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今後の研究の推進方策 |
まず,タスクシステムを完成させ,野生型マウスを用いたシステムの評価ならびにタスクパラダイムのパラメータの最適化を行う.具体的には,マウスに視覚刺激が提示されたサイドを舐める簡単な左右舐め分け課題を学習させるところから始め,段階的に難易度の高い視覚弁別課題を学習させる.その際に刺激提示時間や遅延時間,試行間隔などのパラメータを最適化する.提示刺激のパターンもマウスの反応に応じて最適化する. 次に,GCaMP6発現アデノ随伴ウィルスベクターを作製して,前頭前皮質などのトップダウン信号を出力しているであろう領野に感染させ,視覚野における投射の有無を確認する.投射が確認されたら,視覚野浅層の軸策終末におけるカルシウム応答の2光子励起イメージングを行う.さらに,視覚野における局所的細胞外電位変化を記録して,タスクによって惹起された注意との神経相関を調べる.野生型マウスで最適化したタスクシステムでネトリンG1大脳皮質特異的欠損マウスの行動および神経活動を評価する.ここまでは平成26年度を目処に実施する予定である. 最後に,注意機能に関与すると考えられている皮質浅層におけるアセチルコリン入力と高次皮質領野からの直接投射を区別するために,ハロロドプシン発現DIO(doubly-floxed inverted opsin)アデノ随伴ウィルスベクターを作製して,ChAT(コリンアセチルトランスフェラーゼ)-Creマウスの前脳基底核に感染させ,視覚野に黄色光を照射することでアセチルコリン作動性細胞の軸策終末におけるアセチルコリン放出を抑制する.以上は,平成27年度に実施予定である.
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