研究概要 |
人工多能性幹細胞(iPS細胞)は、生命倫理的な問題と拒絶反応を回避できる幹細胞として、生物学・創薬・医療分野に、貢献が期待されている。しかし、ヒト由来のiPS細胞は、常時一定の性質での培養が難しい。「iPS細胞の品質管理法の確立」は、喫緊の課題である。通常、iPS細胞培養には、接着の為の足場細胞、”フィーダー細胞”が必要である。未だメカニズムは明らかでないが、フィーダー細胞がiPS細胞に与える力学刺激の違いが、iPS細胞の品質のばらつきを生んでいると考えられる。本研究では、マウス由来の高品質iPS細胞に最適な、物理的培養環境を人工的に作り、フィーダー細胞を用いない、iPS細胞の品質管理法の確立を目指す。また、iPS細胞が、基盤弾性に応答し、その刺激を細胞内部へ伝達し、高品質iPS細胞へと移行・維持するメカニズムを解明することを目標にしている。 本年度は、高品質iPS細胞(full iPS細胞)を誘導・維持するのに有効な力学刺激があるか検討した。品質の悪いiPS細胞(Partial iPS細胞)を様々な弾性を持つ基盤上に培養し、高品質iPS細胞に移行するかをEOSレポーターの発現を指標に、FACSにて解析を行った。解析の結果、品質の悪いiPS細胞が高品質iPS細胞に劇的に移行するような基盤弾性は、未だ発見出来ていない。また、それと並行して、高品質iPS細胞の品質維持に有効な弾性基盤が存在するか検討を行った。EOSレポーターの発現量をFACSを用い解析した所、0.2kpa, 0.5kpa, 1kpa, 3kpaなどの柔らかい基盤上で培養した時、有効であるかもしれないプライマリーなデーターを得た。 今後は、補助的に用いている2i濃度の最適化や、他の薬剤の使用などで、培地を最適化することにより、フィーダー細胞無しでの高品質iPS細胞への細胞状態の移行や維持に挑戦したい。
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