iPS細胞は、MEFやSNLなどのフィーダー細胞上での培養が、未だ一般的である。本研究では、基質弾性に着目し、マウスiPS細胞培養に最適な弾性を持つ基質環境を人工的に作り、フィーダー細胞を用いない、新たなiPS細胞培養法の確立を目指した。 最終年度では、iPS細胞株「iPS-MEF-Ng-20D-17」を用いた。このiPS細胞株は、幹細胞マーカーnanogの発現をGFPシグナルで検出できる。GFP発現を指標に、iPS細胞がソフトマテリアル上でも維持・培養できるか観察した。この結果、フィーダー細胞上で培養した時と同様に、ソフトマテリアル上でもGFP発現は維持され、培養可能な事が分かった。更に、高品質iPS細胞培養時に用いられる2i (GSK3阻害剤、MAP kinase阻害剤)をソフトマテリアル基質と併用し、培養条件の改良に成功した。 次に、足場の力学刺激「弾性」が、細胞の未分化状態維持に関わるメカニズムの解明を目指した。フィーダー細胞上で培養したiPS細胞と、ソフトマテリアル上で培養したiPS細胞の遺伝子発現の比較をマイクロアレイ解析により行った。解析の結果、両者には、6000を超える遺伝子で2倍以上の発現増加が検出され、4000以上の遺伝子で2倍以上の発現減少が検出された。このことから、フィーダー上で培養された細胞と、ソフトマテリアル上で培養された細胞は、両者でnanogの発現量が高く維持されているにも拘らず、その維持のメカニズムは全く同じではないと考えられた。現在、ソフトマテリアル上で培養した際、未分化の維持に寄与するシグナル伝達系を抽出しつつある。そのシグナル伝達の鍵となる分子を人工的に入力する事で、プラスチック培養皿上でもフィーダー細胞無しにiPS細胞を培養できる方法を開発中である。
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