研究課題/領域番号 |
25871153
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 国立医薬品食品衛生研究所 |
研究代表者 |
迫田 秀行 国立医薬品食品衛生研究所, 医療機器部, 主任研究官 (50443099)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 人工関節 / 超高分子量ポリエチレン / 生体脂質 / 耐久性 |
研究概要 |
1.抜去インプラントに含まれる生体内物質の定量的評価 入手済みの抜去インプラント17例について、赤外分光光度計による分析を行い、インプラント材料に含まれる脂質量を評価したところ、関節液のアクセスのしやすさ、埋植期間、患者体重と関連性があることが示唆されたが、埋植期間が最短だった試料(0.3年)でも平均以上の脂質が浸入しており、個体差の影響の可能性も考えられた。 2.生体内物質によるインプラント材料の劣化の力学的手法による評価 抜去インプラントに適用可能な力学試験法として、打ち抜き試験とマイクロインデンテーション試験を提案し、これらの妥当性や特徴を調べるため、生体脂質の一つであるスクアレンに浸漬した試料(SQ)と、これをさらに加速酸化させた試料(SQA)等、計5種類の材料を作製し、引張試験、圧縮試験、打ち抜き試験、マイクロインデンテーション試験により評価したところ、SQAを除き、いずれの試験法でも弾性率の測定結果はほぼ同様だった。SQAの弾性率はマイクロインデンテーション試験、打ち抜き試験、圧縮試験の順で高く測定された。これは、SQAでは特に表面で酸化が進行して弾性率が上昇していること、マイクロインデンテーション試験では押し込み深さである10マイクロメートル程度の範囲の、打ち抜き試験では試験片厚さである0.5 mm程度の範囲の弾性率を反映しており、より試験対象範囲が小さい試験法では、表面近傍の高い弾性率が測定されたためと思われた。 3.生体内物質に起因する材料の劣化による力学的特性への影響評価 SQとSQAについて、引張試験、圧縮試験、摩耗試験、デラミネーション試験を実施した。SQでは弾性率と降伏応力の低下が、SQAでは弾性率、降伏応力、破断応力、破断伸びの上昇が見られた。SQAでは摩耗量が上昇した。SQやSQAにおいて、デラミネーション特性の低下は見られなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.抜去インプラントに含まれる生体内物質の定量的評価 赤外分光光度計を用いた分析で、脂質の浸入量を相対的に評価する手法を考案することができた。これにより、脂質の浸入に影響する因子を明らかにすることが可能になった。しかし、浸入した脂質の種類を特定すること、その量を定量することはできておらず、今後の課題となっている。 2.生体内物質によるインプラント材料の劣化の力学的手法による評価 抜去インプラントに適用可能な力学試験法について、その妥当性と特徴を評価した。このうちマイクロインデンテーション試験は、表面近傍の微小領域の力学特性が評価できるため、特に有用であると考えている。また、打ち抜き試験では、破壊に関するパラメータが評価できる点が優れている。抜去インプラントへの適用がまだ開始できていないため、この点が今後の課題となっている。 3.生体内物質に起因する材料の劣化による力学的特性への影響評価 生体脂質の一つであるスクアレンに浸漬した試料の評価は順調に進捗している。
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今後の研究の推進方策 |
1.抜去インプラントに含まれる生体内物質の定量的評価 抽出した脂質を用いた分析により、物質の同定と定量を行う予定である。第一候補として、液体クロマトグラフ質量分析を考えている。比較的分子量の大きな物質の分析が可能であるため、脂質全体の構造を把握することが可能である。問題点として、検出されると思われる物質の種類が膨大であることが挙げられる。例えばリン脂質では、構成する脂肪酸の炭素数や二重結合の位置などにより無数の組み合わせがある。第二候補としては、ガスクロマトグラフ質量分析を考えている。分子量が大きく気化しにくい物質は分析に適さないため、加水分解を行う必要があるが、その結果、検出されるのは脂質の構成要素になるため、検出される物質の種類は限定される。問題点は、加水分解を行う前の脂質の構造を直接把握することはできないことである。 2.生体内物質によるインプラント材料の劣化の力学的手法による評価 マイクロインデンテーション試験や打ち抜き試験により、抜去インプラントの力学特性の評価を行う。 3.生体内物質に起因する材料の劣化による力学的特性への影響評価 引き続きスクアレンに浸漬した試料を試作し、スクワレンによる力学特性への評価を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
抜去インプラントに含まれる生体内物質の定量的評価を、本年度は、多くの消耗品費を必要とするガスクロマトグラフ質量分析ではなく、消耗品費をあまり必要としない赤外分光光度計を用いた分析により行ったため。 本年度は、ガスクロマトグラフ質量分析または液体クロマトグラフ質量分析などの実施を計画しており、分析用カラムなどの消耗品費に使用する予定である。
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