研究課題/領域番号 |
25871153
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研究機関 | 国立医薬品食品衛生研究所 |
研究代表者 |
迫田 秀行 国立医薬品食品衛生研究所, 医療機器部, 主任研究官 (50443099)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 人工関節 / 超高分子量ポリエチレン / 生体脂質 / 耐久性 |
研究実績の概要 |
1.抜去インプラントに含まれる生体内物質の定量的評価 入手済みの抜去インプラント5例から厚さ100マイクロメートルの薄片を作製し、ヘキサンにより脂質の抽出を行った。酵素反応を利用した脂質定量法により、抽出物に含まれる、トリグリセリド、リン脂質、コレステロール、コレステロールエステルの量を測定した。対象とした物質の定量は可能であり、コレステロールエステルの量が最大で、リン脂質は少ないことがわかった。また、試料ごとのばらつきも大きいことがわかった。しかし、抽出物には測定対象外の物質も多く含まれており、未使用の超高分子量ポリエチレンからも抽出物が認められた。これらは、超高分子量ポリエチレンの断片であることが予想されたため、抽出方法について工夫が必要と思われた。 2.生体内物質によるインプラント材料の劣化の力学的手法による評価 入手済みの抜去インプラント17例に対して、マイクロインデンテーション試験により評価を行った。マイクロインデンテーション試験の測定結果と、患者背景、埋植期間、超高分子量ポリエチレンの酸化度や脂質指数、結晶化度、破損の程度などとの関係について考察を行ったが、これらの間に関係性は見つけられなかった。マイクロインデンテーション試験では、装置のクリアランスが小さいため、凹面上の人工股関節の寛骨臼ライナー摺動面を測定するには、試験片を小さく切るなどの準備が必要があることがわかった。 3.生体内物質に起因する材料の劣化による力学的特性への影響評価 スクアレンを含む材料について、打ち抜き試験と疲労き裂進展試験を行った。スクアレンに浸漬した後、加速酸化処理を施した試料では、何も処理をしない超高分子量ポリエチレンとは異なる力学特性を示したが、ガンマ線照射後に加速酸化処理を施し意図的に酸化劣化を生じさせた試料と比べると、力学特性の低下は限られていた。また、疲労き裂進展特性の低下も見られなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.抜去インプラントに含まれる生体内物質の定量的評価 酵素反応を利用した脂質定量法を用いることにより、抜去インプラントに含まれる生体内脂質の定量的評価が可能であることがわかった。しかし、超高分子量ポリエチレンの断片と思われる、測定対象外の物質も大量に抽出されることがわかった。抽出方法に工夫が必要と思われた。 2.生体内物質によるインプラント材料の劣化の力学的手法による評価 マイクロインデンテーション試験により、抜去インプラントの力学特性を評価できた。 3.生体内物質に起因する材料の劣化による力学的特性への影響評価 生体脂質の一つであるスクアレンに浸漬した試料の評価が完了した。
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今後の研究の推進方策 |
1.抜去インプラントに含まれる生体内物質の定量的評価 血液中に含まれる主な生体内物質を対象に、酵素反応を利用した脂質定量法を用いて定量が可能であることがわかった。しかし、抽出物に対して定量された脂質の量は10%程度で、測定対象外の物質が大量に抽出されていることがわかった。未使用の超高分子量ポリエチレンからも抽出物があること、過去の分析でパラフィン類が検出されていることから、低分子化した超高分子量ポリエチレンが抽出されているものと考えられた。これまでは、抽出効率を上げるため、薄片にした試料を用いて抽出を行っているが、脂質は試料の表面付近に存在していることから、脂質の抽出効率への影響は小さい可能性が考えられた。一方で、脂質をあまり含まない部分の表面積が著しく増大し、脂質以外の物質が多く抽出されてしまった可能性があった。そこで今後は、ブロック状の試料を用いて抽出を行う予定である。また、スクアレンの定量も行う。 2.生体内物質によるインプラント材料の劣化の力学的手法による評価 マイクロインデンテーション試験では、その他のパラメータとの相関がなく、また、測定のための試料準備に困難を伴うことから、新たな試験法について検討を行う。 3.生体内物質に起因する材料の劣化による力学的特性への影響評価 コレステロールエステルの存在が確認されたことから、コレステロールエステルによる影響について調査、研究を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
抜去インプラントに含まれる生体内物質の定量的評価において、測定対象以外の物質が多く認められ、その対策を検討する必要があり、測定数が5例でとどまったため。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度は、改良した測定手順により多くの測定をする予定であり、脂質の定量キットなどの消耗品費に使用する予定である。
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