1.抜去インプラントに含まれる生体内物質の定量的評価 入手した抜去インプラント9例から約10 mm角のブロックを作製し、ヘキサンにより脂質の抽出を行った。酵素反応を利用した脂質定量法により、抽出物に含まれる、トリグリセリド、リン脂質、コレステロール、コレステロールエステルの量を、GC-MSによりスクアレンの量を測定した。抽出物の量は薄片を用いて抽出した場合と大きな差がなく、ブロックを使用しても問題ないことがわかった。スクアレンの量は抽出物の量の1 %程度で、抽出物には測定対象外の物質が多く含まれていることがわかった。 2.生体内物質によるインプラント材料の劣化の力学的手法による評価 劣化を人工的に再現した試料を、マイクロ・スラリージェット・エロージョン法により評価した。劣化した試料のエロージョン率は高く、マイクロ・スラリージェット・エロージョン法により、劣化による強度低下を評価できることが確認された。次に、抜去インプラント18例を、マイクロ・スラリージェット・エロージョン法により評価したところ、多くの抜去インプラントで、表面近傍における強度低下が観察され、脂質による劣化が示唆された。 3.生体内物質に起因する材料の劣化による力学的特性への影響評価 従来用いていたスクアレンには、安定剤としてビタミンEが添加されていたが、安定剤を含まないスクアレンを用いて処理を行った試料を作製し、デラミネーション試験と摩耗試験により評価を行った。デラミネーション特性は、安定剤を含む場合と同様で、スクアレン処理により大きな低下は見られなかったが、摩耗特性は、安定剤を含まない場合より大きく劣化していた。ラジカルに起因する酸化劣化を防止するため、UHMWPEにビタミンEを添加した製品が実用化されているが、ビタミンEの添加は、脂質による劣化の防止にも効果がある可能性が示唆された。
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