研究課題/領域番号 |
25871155
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 国立医薬品食品衛生研究所 |
研究代表者 |
山崎 朗子 国立医薬品食品衛生研究所, 衛生微生物部, 研究員 (30648358)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | Cryptosporidium / 野生動物 / 疫学調査 / 水系感染症 |
研究概要 |
本年度は、野生動物がヒトの生活圏に頻回出現する地域を選出した。害獣被害は、特にシカによるものが多いため、本研究では野生シカを対象とし保有する水系感染症病原原虫のCryptosporidiumの保有状況を調査した。獣害対策を行っている地方公共団体・猟友会・食肉加工施設等との協議により、北海道、長野県、静岡県、三重県、奈良県、京都府、熊本県の野生シカ調査許可を得た。水源汚染との関連性を解析するため、奈良県および三重県の山間部生活用水の採取・検査協力も得た。これまでに静岡県45検体、三重県4検体、奈良県3検体、京都府29検体の合計81検体の野生シカ糞便試料を採取した。各糞便試料から遠心沈殿法で夾雑物を除去後、核酸を抽出した。リアルタイムPCR法によりCryptosporidium属原虫の検出を行ったところ、国内に生息する野生シカからは初めて静岡県で7検体(15.6%)京都府で5検体(17.2%)の陽性が確認された。ここで検出された原虫の種および遺伝型を同定するため、18SリボソームRNAの遺伝子配列を確認したところ、2013年にヨーロッパで初めて確認された鹿由来の新種との同型種が2検体検出され、残りの10検体の同定を現在進めている。過去に8000人を越す発症事例が起こったにも関わらず、Cryptosporidiumに関する全国的な疫学調査は行われておらず、数少ない研究報告も家畜調査が多くを占める。生息範囲を管理しやすい家畜に比べ、自由に広範囲を往来する野生動物は近年の大増殖による生息域の拡大でヒトとの接触が更に増加する恐れがある。本研究は、広範囲における野生動物のCryptosporidium属原虫保有状況を調査した国内初めての研究であり、同時に初の野生シカからの検出例であるため、今後野生動物からヒトへの水系感染源伝播のコントロールにあたって大きな役割を果たすことが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
試料採集地域の決定と、各地域での試料採集許可および研究依頼を行う際、同じく野生シカを対象とした「病原因子遺伝子情報を用いたジビエの食中毒危害微生物の解析と検査法」(挑戦的萌芽研究H24~H26)の研究で築かれたネットワークを基として各都道府県、家畜保健所、地方衛生研究所など多数の組織団体の協力が得られたため、試料採集が効率よく行えた。また、それぞれの地方公共団体を通じて所属猟友会への研究協力依頼が可能であったため、捕獲に参加して自身で試料を採取するとともに、採取方法および必要試料の説明、持続的な試料採取と配送を依頼することが出来たため、予想より早い段階で試料入手できた。実験手法に関しては、国立感染症研究所、国立保健医療科学院の協力を得ることができたため、糞便試料からのCryptosporidium分離法、Cryptosporidium原虫検出に信頼性の高い標的遺伝子の選出、遺伝子増幅法の習得および使用試薬の選定を短期間で行うことが出来た。このような理由から、予定していた計画よりも早くに病原体遺伝子の検出を行う段階に進むことが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに遺伝子検査を行った地域の試料については、更なる遺伝子解析を行う。(1)種同定の指標となる18Sリボソーム遺伝子の塩基配列を決定し、野生シカから分離されたCryptosporidiumの種を同定する。(2)これまでに報告のある病原性遺伝子について、遺伝子保有状況を調べると共にサブタイピングによる系統解析を行う。(3)まだ種名が決定されていない種については、既知の種との相同性解析により近縁系統を探索する。 また、遺伝子検出された検体については、糞便中の原虫濃度を測定する。方法は、糞便試料を酢酸エチル遠心法で処理し夾雑物を除去したのち、免疫磁気ビーズを用いて線滝的濃縮を行う。得られたCryptosporidium属原虫を免疫蛍光染色して、蛍光顕微鏡で観察し、糞便1gあたりの原虫数を算出する。同時に、これまでに研究協力を得た北海道、長野県、熊本県の野生シカ糞便試料を採集し、これまでと同様の検査を行い、より広範囲にわたる分布状況の情報を得る。遺伝子検査、顕微鏡検査によってcryptosporidium原虫の種および遺伝型や各型の分布状況、野生シカでの原虫保有率などを地域ごとに比較し、統計解析手法によって各地域におけるCryptosporidium属原虫保有野生シカ分布に有意な相違の有無を検討する。また、多種のCryptosporidium原虫が大量に分離採取された場合、in vivoでの病原性を確認する為、実験動物を用いた各種ごとに区別して感染実験を行い、病原性の強さ、症状の相違などを確認する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度は主に研究協力依頼・調査許可および研究内容説明のために各地方に出張する計画であったため旅費としての大きな消費が予定されたが、事前に電話やメールなどで説明した段階で、近隣県での県庁・市役所・食肉加工施設や衛生研究所などが連絡し合うことで日程調整が可能となり、訪問回数を大幅に減らす結果になった。また、同様に野生シカ研究を進めている大学機関等と分担して試料採集・研究説明を行ったため、相互に採集した試料を譲与することによって時間及び旅費が短縮され、上記とともに残額が生じた理由となった。 本年度同様、各地方への研究協力依頼のための旅費としての使用と、今回の研究結果をもとに募った新たな調査地域への研究内容説明等を目的とした出張、試料採取を依頼する際の謝金、人件費、更に新しく採取する試料の調査研究を進行するための試薬・機器等に使用する。
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