研究協力を得られた各都道府県から野生ニホンジカの試料を得た。 関東地方は静岡県(天城・富士宮)45頭、山梨県42頭、千葉県11頭、近畿地方では三重県25頭、京都府29頭、滋賀県23頭、九州地方は熊本県18頭、宮崎県5頭、長崎県51頭、合計で全国から251頭分の試料が採集された。性別が分かっているものは雌個体122頭、雄個体123頭である。上記の試料を用いて研究計画書のとおりに実験を行い、問題なく糞便中のクリプトスポリジウム原虫の濃縮、核酸抽出、18SリボソームRNAを標的としたクリプトスポリジウム属原虫の検出ができた。その結果、現在までに、静岡県15.6%(7/45)、京都府17.2%(5/29)、千葉県9.1%(1/11)、山梨県0%(0/42)、三重県0%(0/25)、滋賀県0%(0/23)、宮崎県20.0%(1/5)、熊本県0%(0/18)、長崎県2%(1/51)という陽性率が確認されている。雌雄間では雄8.9%(11/123)、雌4.1%(5/122)であった。これらの陽性検体について塩基配列を解析したところ、Cryptosporidium sp. deer genotype、C. ryanae、C. bovisと100%の相同性を示した。これらのうち、C. bovisはC. ryanaeとともに同一個体から検出され、混合感染の様相を示した。このように、シカ固有種に加えウシ由来の種が感染していることが分かった。全ての陽性検体について、検量線からCt値を参考に遺伝子コピー数を算出した結果、糞便1gあたりのオーシスト数は最大でも1の低密度感染であることが分かった。以上の結果から、野生ニホンジカには地域ごとに異なる陽性率でクリプトスポリジウム感染が存在しており、その種はウシに感染するものと同一であることから、家畜との相互関係が想定されることが分かった。
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