研究課題/領域番号 |
25871161
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 独立行政法人国立がん研究センター |
研究代表者 |
窪田 大介 独立行政法人国立がん研究センター, 中央病院, がん専門修練医 (70638197)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 骨肉腫 / マイクロRNA / バイオマーカー / 化学療法奏効性 / 悪性骨腫瘍 / 個別化医療 |
研究概要 |
背景:骨肉腫は小児に好発する原発性骨腫瘍である。骨肉腫において化学療法の奏効性は予後を規定する因子として重要である。治療開始前に奏効性を予測できれば、化学療法の個別化や最適化が可能となる。我々は治療開始前に化学療法奏効性を予測するバイオマーカーの開発を行った。 方法:8症例の治療開始前の骨肉腫切開生検検体(奏効4例、抵抗4例)を用い、2群間のmiRNAプロファイルをマイクロアレイを用いて比較検討した。発現差を認めたmiRNAに関しては、骨肉腫細胞株にmiRNAを導入し、その機能について検討した。 結果:マイクロアレイの結果、2群間で6個のmiRNAに有意な発現差を認めた。この中でも最も差が顕著であった2個のmiRNAについて機能解析を行った。骨肉腫細胞株にmiRNAを導入し高発現させると、MTX, DOX, CDDPのいずれに対しても抵抗性が増大した。また細胞増殖アッセイ・浸潤アッセイではこれらのmiRNAは細胞増殖・細胞浸潤を促進した。次にこれらのmiRNAがどのmRNAを標的として作用するかを検討した。miRNAのデータベースや文献情報の加味検討を行い、これらのmiRNAがアポトーシス・細胞周期を調節する分子(TP53, Rb)を制御し薬剤抵抗性に寄与する事を確認した。またTunel染色による解析も行い、miRNA導入によりアポトーシスが抑制されることも確認した。最後に質量分析を用いて、miRNA導入前後のタンパク質プロファイルの変化を網羅的に解析した。その結果、miRNA導入により細胞周期に関わるタンパク質のプロファイルが変化することを確認した。現在、生体内での機能を検証するために動物モデルの作成を行なっている。 結論:骨肉腫の化学療法奏効性に関わるmiRNAを同定し、また機能解析によりmiRNAと化学療法奏効性のメカニズムを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は骨肉腫の化学療法奏効性に関わるmiRNAの機能解析を行なった。 骨肉腫細胞株を用いて、miRNAの導入を行い、その前後での遺伝子発現プロファイルの変化をプロテオーム解析・トランスクリプトーム解析・データベースを用いて解析した。miRNAおよびその候補遺伝子の機能については、細胞増殖やアポトーシス、浸潤能について検討した。細胞増殖についてはMTS Assayを行い、miRNAが骨肉腫の細胞増殖を促進することを確認した。また細胞浸潤能の変化についてはマトリゲルを用いたInvasion Assayを行い、miRNAが骨肉腫の細胞浸潤を促進することを確認した。アポトーシスについては、アポトーシス関連分子に対するウェスタンブロット法と、Tunel染色を用いて解析を行い、これらのmiRNAが標的とするmRNAの発現抑制を介し、アポトーシスを抑制することを確認した。また、タンパク質の全体的なプロファイルの変化を確認するために質量分析・GELC-MS法を用いて、miRNAの導入前後のタンパク質発現変化を観察した。その結果、細胞周期に関わるタンパク質のプロファイルを変化させることを明らかとした。これらの解析結果より、バイオマーカー候補miRNAがどのような分子パスウェイを介して抗癌剤奏効性を調節しているかを明らかとした。 また、生体内でのmiRNAの機能を検証するために動物実験の準備を進めている。骨肉腫細胞株に恒常的にmiRNAを高発現させるベクターの導入を試みている。ベクターの導入が困難である場合は、LNA microRNA inhibitorを用いた動物実験の系の樹立を計画している。
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今後の研究の推進方策 |
網羅的な発現解析により見出されたmiRNAおよびその標的分子を臨床検査として応用するためには、qRT-PCRや免疫染色のように簡便で安価な検査技法を用いる事が実際的である。またqRT-PCRや免疫染色を用いることにより、多施設における過去の多数の検体を用いた解析が可能となり、これらのバイオマーカー候補の有用性について、より大規模に短期間で検討することができる。 検証にはパラフィン包埋保存されている骨肉腫のサンプルを用いる。miRNAはパラフィン包埋検体より抽出したRNAから検出可能である事をすでに確認している。骨肉腫の治療開始前の生検検体における候補miRNAの発現をqRT-PCR法で確認し、またmiRNAの候補分子については特異抗体を用いた免疫染色法で確認する。 多施設における発現検証試験として、現在2施設より40症例分の骨肉腫検体の準備を進めており、これらの臨床検体におけるmiRNAの発現検証研究を進めていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初、平成 25 年度計画では、生体内におけるmiRNAの機能解析を進めていく予定であった。研究過程において、骨肉腫細胞株への恒常的発現のためのベクター組み込む計画で研究をすすめている。しかし、現段階で恒常的にmiRNAを発現する細胞株の樹立に至っていない。これは元来、骨肉腫細胞株がこれらのmiRNAを発現していることも影響していると考えられた。このまま樹立困難な場合、本研究目的を遂行するにあたり、LNA microRNA inhibitorを用いた発現抑制系の細胞株を樹立する必要があると判断した。恒常的発現が困難であると判断したのが、平成26年3月であり、繰越申請に間に合わなかったため、今回申請を行なう。 次年度使用額については、骨肉腫細胞株を用いて当該miRNAの発現抑制株を作成し、生体モデルにおける機能解析を行なう為に使用する。具体的には、LNA micro RNA inhibitorを用いて、各骨肉腫細胞株へのトランスフェクションを行なう。発現抑制が可能であった場合には、作成した細胞株をマウスへ移植し、腫瘍径の計測を経時的に観察する。細胞培養のためのメディウム、血清、およびmiRNA発現抑制のための試薬、培養器具、実験動物の購入のため、次年度使用額の申請をお願いしたい。
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