社会心理的ストレスは、うつ病やそれに付随する睡眠障害などの病態を引き起こす要因の1つと考えられている。本研究の目的は、社会的敗北ストレスを新規改変した動物モデルをラットで構築し、社会的ストレスの環境要因がうつ病態の形成に与える影響について検証することである。昨年度までの研究では、社会的敗北ストレスに用いる系統の組み合わせを選定し、ストレス負荷の方法論を確立した後、行動学的側面からモデルとしての妥当性を評価した。今年度は、睡眠障害という観点から分析し、睡眠パラメータに対する社会的ストレスの影響について検討した。前頭部、頭頂部の脳表にステンレスネジ電極を留置したラットに社会的敗北ストレスを負荷し、ストレス後に24時間の睡眠覚醒脳波を記録した。その結果、ノンレム睡眠においては、総出現時間が対照群に比べて有意(P<0.01)に減少し、出現潜時は延長する傾向を示した。一方、レム睡眠においては、総出現時間が対照群に比して有意(P<0.01)に増加し、ノンレム睡眠開始よりレム睡眠が最初に出現するまでの潜時は有意(P<0.05)に短縮していた。また、各睡眠相とも出現と消失を頻回に繰り返す断片化が顕著であった。横軸に各睡眠相の総出現時間、縦軸に断片化の値をプロットすると、対照群とストレス群では異なる分布パターンを示し、ストレス後よりイミプラミンを慢性投与すると、対照群と類似の分布パターンにシフトした。さらに、イミプラミンは各睡眠相の総出現時間の異常を有意(P<0.01)に改善し、出現潜時も改善させる傾向を示した。したがって、本モデルはヒトのうつ病に伴う睡眠障害と非常に類似した病態を呈することが明らかとなった。この結果を踏まえ、「睡眠異常をきたすうつ病のモデル動物」(松田ら特願)、「うつ病や急性ストレス性障害の診断バイオマーカー及び治療又は予防用組成物」(楯林ら特願)の2件を特許出願した。
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