研究実績の概要 |
自損(自傷)行為・自殺未遂歴は自殺の最も強い危険因子であることが指摘されており、その予防・再企図防止を進めるうえでこれら自殺関連行動の背景要因を明らかにすることは重要な課題である。本研究では、わが国の都市部を対象とし、域内で発生した自損行為に関する悉皆データを分析することにより、新聞など公的メディアにおける自殺関連の報道と自殺未遂との関連を明らかにすることを目的とした。 国内の政令指定都市A市の消防局から、2009年1月~2011年12月までの3年間に同消防局管内で発生した自損行為に関する救急活動記録票データベースの提供を受けた。自損行為により管内で救急車が出動した全事例のうち、救急隊によって医療機関に救急搬送され、かつ搬送時点で生存が確認された3,350事例を自殺未遂事例と定義して分析対象とした。 分析の結果、2011年5月に、女性、および精神疾患の既往歴のある層における自殺未遂事例数が前月比・前年同月比で増加していた。その一方で、自殺未遂事例全体で見た場合には、2011年5月における搬送事例数の前月比・前年同月比での増加はみられなかった。当該3年間の新聞主要紙における自殺関連の報道を分析した結果、2011年5月には著名人の自殺に関する報道が顕著であった。なお、2011年5月にはA市において、救急出動現場で、もしくは搬送中・搬送後に死亡が確認された自損行為事例数も前月比・前年同月比ともに増加しており、精神疾患の既往のない層での増加がみられた。 以上の結果から、2011年3月に発生した東日本大震災の影響などを考慮する必要はあるものの、著名人の自殺に関する大々的な報道が自殺企図のリスク、および女性や精神疾患の既往のある層における自殺未遂のリスクを高める背景要因のひとつである可能性が示唆された。
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