本研究では,神経変性疾患の極初期における神経機能障害と,その分子メカニズムを解明し,脳疾患における普遍的な早期病態を見出すことを目的とした.これを遂行するため,単一遺伝子変異により発症することが分かっているシンプルな神経変性疾患を対象とし,神経ネットワークの遷移過程をin vivo 2光子イメージングを用いてその評価を行った.In vivo 2光子イメージングにより,生きたマウスの脳におけるシナプスを継時的に観察することで,そのシナプスの動態を解析し,神経ネットワークの遷移過程を調べることが可能となる. 前年度までの研究から,脊髄小脳失調症1型 (SCA1)ノックインマウスにおいて,シナプスが異常な不安定性を示すことを明らかにした.SCA1ノックインマウスのシナプス不安定性は,神経ネットワーク発達期からすでに起こっている現象であり,ある種の神経発達障害であることを見出した.通常,シナプスは動的に生成・消滅を繰り返しているが,神経ネットワーク発達期には,この生成・消滅速度が速く,シナプスが不安定であるが,これは成熟とともに安定化する.しかしながら,SCA1ノックインマウスのシナプスは,発達期より異常な不安定性を呈し,その不安定性は成熟後も持続した. 最終年度では,この現象をより詳しく調べ,明確な運動失調症状が現れる週齢以前より,SCA1ノックインマウスはシナプス不安定性を呈することを明らかにした.また,このとき複数のシナプス足場タンパク質が減少していることを示した.以上の結果を論文としてまとめ,現在投稿中である.
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