研究課題/領域番号 |
25871175
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター |
研究代表者 |
佐藤 さやか 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター, 精神保健研究所社会復帰研究部, 室長 (20450603)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 統合失調症 / 就労支援 / 社会的スキル / 認知機能 / 質問紙 |
研究概要 |
精神障害をもつ人に対する就労支援ニーズの高まりに伴い、就労に必要な能力に関するアセスメント法も求められている。これまでも精神障害者のアセスメント法としてさまざまな測定ツールが開発されてきたが、医療現場における研究に用いることを想定した厳密かつ操作が複雑なものも多かった。我が国の精神保健医療福祉システムの現状を考えた場合、就労に関する支援は地域の就労支援機関や実習を受けいれている企業等で行われることが多く、こうした場面では上述のような厳密かつ複雑な測定ツールの活用は難しい。そこで本研究では、就労に必要な能力の中でも、職場や職種選びの際に特に重要と思われる認知機能と社会的スキル(対人スキル)を簡便に測定できる質問紙尺度の開発を目的とした。研究の流れは下記のとおりである。①認知機能:Greig et al.(2004)によるThe Vocational Cognitive Rating Scale(VCRS)の日本語版を開発する。VCRS は職場での作業場面を想定した行動を元に評価できる16 項目5 件法の他者評価質問紙であり、これまで利用されてきた特定の用具を用いた神経心理検査(BACS等)とも高い相関がみられ信頼性・妥当性も報告されている。原版について原著者に翻訳の許可を依頼し、その後翻訳、バックトランスレーションを経てデータ収集を実施する。②社会的スキル:社会的スキルについてはこれまでも測定する質問紙法がなかったわけではない。しかしその項目をみると内容が“巨視的”すぎて対象者の小さな特徴や変化が捉えづらい。そこで視線や身振りの使い方など,いわば“微視的”スキルをとらえることができる質問紙の作成をめざす。就労支援の経験がある臨床家や企業の人事担当者へのグループインタビューから原項目を生成し、データ収集を実施する。①、②ともに調査対象者は臨床群150名、健常群150名を予定。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
①The Vocational Cognitive Rating Scale(VCRS)の日本語版を開発:原著者であるDr. Greigがすでに研究グループより離脱されており、当日の研究チームのリーダーであったDr.Bellとの交渉が必要となっている。VCRSは10年前に作成された尺度であることに加え、Dr.Bell自身が非常に精力的な研究者であることから、対応頂くスピードがゆるやかであり、現時点では翻訳に許可は得られていない。新年度に入り、さらに交渉のスピードを上げることに加え、許可が得られた後は速やかに翻訳やバックトランスレーションを行えるよう準備を整える予定である。②“微視的”社会的スキル尺度の開発:精神障害者に特化した人材派遣事業を行う(株)リクルートスタッフィング社に協力を依頼し、「精神障害者が就労する上で必要と考えられる対人スキル」についてグループディスカッションを3回実施した。当初は望ましいスキルについて聞き取りを試みたが、就労する上では望ましいスキルがあることよりも望ましくないスキルが少ないことのほうが就労の維持には有効であるとの意見を頂くことができた。そこで改めて「精神障害者が就労する上で避けたほうが良い対人スキル」の聞き取りを実施したところ「人によって適切な話題を選べない」「報告・連絡・相談(ホウレンソウ)」ができない」「あからさまなため息をつく」「相手が話し終える前に自分が話し出してしまう」「臨機応変な対応ができない」など具体的な場面を想定した項目を収集することができた。これらの項目は精神障害者にもよく見られるスキルであると同時に、若年労働者など企業が人材育成を実施する際にも改善が求められる行動であることから、臨床群だけでなく健常群のデータを収集するという本研究のデータ収集計画にそった項目を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
①The Vocational Cognitive Rating Scale(VCRS)の日本語版を開発:上項での述べたように速やかに原著者の許可を得たのち、翻訳とバックトランスレーションを行い、秋に予定している臨床群50名のデータ収集に間に合わせる。ただ原著者との交渉に1年間を費やしていることから、許可が得られない可能性も踏まえ、代替の尺度としてについても検討を行う。②すでに尺度項目案についてまとまりつつあり、今年度は上記リ社から頂いたご意見をもとに複数の企業の人事担当者によるグループディスカッションを6月および8月に実施し、項目をFIXする。両尺度の原項目について以下の手順でデータ収集を開始する。a.9月をめどに申請者所属先デイケアや就労支援機関のネットワークであるJapan Individual Placement and Support Association(JIPSA)にデータ収集協力依頼を実施、b.10月から2015年1月にかけてデータを収集(精神症状評価は主治医、日常生活でみられる対人スキルや全般的機能は支援者、認知機能はテスターがそれぞれ評価)、c.2-3月にかけてデータ分析を実施し、両尺度の第一版を確定。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究は①VCRSの日本語版の開発と②“微視的”社会的スキル尺度の開発で構成されているが、いずれの研究についても当初想定しない事態が起こり、研究計画の遂行スケジュールに狂いが生じた。①は原著者から許可を得る交渉がはかどらず、その後に予定していた翻訳やバックトランスレーションを実施できなかった。また②については尺度項目の生成および整理を依頼する予定であったリクルートS社内で人事異動があり、研究協力者が研究にコミットすることが難しい期間が生じグループインタビューが実施できなかった。①・②の事由により平成25年度内に実施する予定であった臨床群へのデータ収集が実施できず、経費の多くを占める調査協力者への謝金支出がなかったことが次年度使用額が生じた理由である。なお、現時点では同社内の別人物が研究協力者となることが決まっており、今年度より新たな体制で研究を遂行できる予定である。 H25年度からの次年度使用額116万円余りと当初より予定されていた130万円、合計240万円の予算について下記のような支出を予定 ・“微視的”社会的スキル尺度の開発のためのグループインタビュー計3回、延べ20名程度の参加者への謝金10万円、・2つの尺度の第一版を確定するための予備調査:臨床群延べ50名程度への謝金25万円、以上、2つの尺度の第一版確定までに35万円の謝金を見込み、この他学会参加費等の諸経費を含め50万円を支出。・第一版確定後の本調査:臨床群100名、健常群150名、合計250名に対する謝金125万円・Pacific Rim College of Psychiatry(2014年10月)参加:旅費等諸経費30万円・書籍・物品購入、通信運搬費等:35万円程度、以上で合計240万円の支出を予定。
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