研究実績の概要 |
平成27年度は、電子顕微鏡を用いて菌核粒子の隔壁内部における4,9-dihydroxyperylene-3,10-quinone(DHPQ)の局所分布を明らかにするとともに、 電子スピン共鳴(ESR)を用いてDHPQと菌核粒子のラジカル活性を評価した。また、DHPQをFe3+と錯形成した化合物(DHPQ-Fe)を新たに合成し、DHPQ やAl3+と錯形成した化合物(DHPQ-Al)との比較評価についても行った。 具体的には、菌核粒子を樹脂に包埋した後に薄切片を作成し、透過型電子顕微鏡(TEM)とエネルギー分散型X線分析(EDX)により評価した。その結果、菌核粒子の隔壁内部における構成成分のほとんどが炭素(恐らくDHPQ由来)であり、隔壁内部で一様に分布していることがわかった。 菌核粒子に含まれる色素を抽出して吸光スペクトルを確認したところ、DHPQに加えてメラニンも存在することが明らかになった。ESRによる評価では、DHPQとメラニンの両者にラジカル活性が認められ、DHPQの方が強い活性を示した。菌核粒子自体にもラジカル活性が認められたものの、DHPQ-AlとDHPQ-Feについては、ラジカル活性が認められなかった。これらのことから、菌核粒子のラジカル活性はDHPQやメラニンに由来するとともに、菌核粒子内ではAl3+及びFe3+と錯形成していないことが示唆された。 DHPQやメラニンに抗菌性が認められなかったこれまでの結果を鑑みると、DHPQは菌核粒子中で電子伝達系としての役割、あるいは環境中でのラジカル暴露から生体を防御する役割を果たしているものと考えられた。また、これらの役割を長期にわたって効果的に果たすためには、DHPQとメラニンの共通した水への不溶性と高い耐光性も、重要な性質であるものと考えられた。
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