平成27年度は、前年度までに開発した有機電解液を伴うリチウムイオン二次電池用のIn situセルを用いて、複数の正極材料に対して、オペランド軟X線発光分光による電子状態解析を行った。発光分光測定は、SPring-8の東京大学ビームラインBL07LSUを利用して実施した。充放電はサイクリックボルタンメトリーによって行い、第1サイクルで正しく充放電ができていることを確認して、第2サイクル以降で分光実験を行った。 ポリアニオン系正極材料については、リチウム脱離による遷移金属の酸化反応、およびリチウム挿入による還元反応を観測することができた。酸化物系材料に比べると、酸化還元反応、およびサイクリックボルタモグラムの可逆性が非常に高く、ポリアニオン系材料の良好な充放電サイクル特性とよく対応する結果を得ることができた。充電状態、および還元状態の遷移金属の電子構造として、いずれの状態においても、配位子である酸素からの電荷移動効果が比較的弱いことが示唆された。また、酸化物系材料を用いて、オペランド軟X線吸収分光を実践した。 以上のように、本研究課題において、リチウムイオン二次電池用のオペランド軟X線吸収/発光分光を確立し、理論計算による解析等と合わせて、充放電時の電子状態を詳細に解明することが可能となった。今後、より広範な材料系への展開や、さらに動的な測定への着手等を図り、高性能二次電池の実現に資する系統的な知見が得られると期待される。また、学術的には、本研究は電気化学、材料化学と電子物性の融合に貢献するものであり、固液界面反応のさらなる理解等に役立つものと考えられる。
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