研究課題/領域番号 |
25871187
|
研究種目 |
若手研究(B)
|
研究機関 | 独立行政法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
鷲見 裕史 独立行政法人産業技術総合研究所, 先進製造プロセス研究部門, 主任研究員 (80613257)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 燃料電池 / ガラス / 電気化学 / 省エネルギー技術 / エネルギー変換プロセス |
研究概要 |
リン酸塩ガラスの構造はリン酸濃度や添加物組成によって変化するが、合成温度等の作製条件によってもガラス内のプロトン濃度や含水量が変化し、プロトン導電率に大きな影響を及ぼす。しかし、原料のオルトリン酸等に含まれる水分の一部が合成中に揮発するため、原料組成から残留水分量を規定することはできない。今年度は、カールフィッシャー水分計やFT-IR,固体NMR等を用いて、合成後のガラス試料内のプロトン濃度や含水量を定量する手法について検討した。カールフィッシャー水分計にて評価した800℃,1000℃で合成した仕込み組成30mol%ZnO-70mol%P2O5ガラスの含水率は、それぞれ24.4mol%,5.6mol%であった。低温合成したリン酸塩ガラス内には大量の水が含まれているため赤外線を吸収しやすく、通常の板状ガラス試料でIR測定を行うのが難しい。本研究では、厚さ50ミクロンの薄膜リン酸塩ガラスの作製に成功し、透過法によるFT-IR測定を可能にした。800℃,1000℃で合成した上記組成ガラスでは、3400cm-1付近と2800cm-1付近に吸収ピークが現れ、後者はほぼ同じ吸収率であったのに対して、前者は800℃で合成したガラスにおいて吸収率が大きくなった。これは、合成温度が低くなるほど、可動プロトン濃度が高くなることを示唆している。また、低温合成したガラスの1H MAS-NMR測定では、9ppm付近に可動プロトンに起因すると見られる急峻なピークが観測された。800℃で合成した30mol%ZnO-70mol%P2O5ガラスは、250℃において1mS/cmの導電率を示し、水素-酸素燃料電池の電解質として用いたところ、250℃において0.4mW/cmの出力を得た。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23~24年度に実施した「リン酸塩ガラス電解質を用いた中温作動燃料電池の開発」(研究課題番号:23850021)では、31P MAS-NMRやRaman分光等によってリン酸塩ガラスの構造とプロトン導電率の相関に関する知見を得たが、ガラス内のプロトン濃度や含水率等、プロトン伝導に直接起因する物性の定量評価までは至らなかった。今年度は、カールフィッシャー水分計やFT-IR,固体NMR等によってガラス内のプロトン濃度や含水量の定量化に成功し、リン酸塩ガラス電解質燃料電池の高性能化に向けた知見を得ることができたことから、おおむね順調に進展していると言える。
|
今後の研究の推進方策 |
リン酸塩ガラス電解質燃料電池の高性能化のためには、電解質の性能向上だけでなく、中温作動燃料電池向けの新規電極を開発することが求められる。一般的に、燃料電池の電極は白金等の貴金属触媒と黒鉛等の電子伝導性材料,電解質材料から構成されるが、電解質材料を従来の高分子からリン酸塩ガラスへ変更することによって貴金属触媒や電子伝導性材料との濡れ性等の物性が変化するため、詳しく調べる必要がある。今年度確立したFT-IR向けリン酸塩ガラスの薄膜化技術を応用展開することによって、電解質-電極一体型MEAの作製技術を確立し、リン酸塩ガラス電解質燃料電池の更なる性能向上を図る。
|
次年度の研究費の使用計画 |
研究計画の見直しにより、新規電極材料(貴金属触媒)の購入を見送ったため。 電解質-電極一体型MEA作製に必要な電極材料(貴金属触媒)を購入予定。
|