世界的に省エネニーズが加速する中、特にエネルギー利用の最終形態である「熱」の利活用は今後益々重要となると考えられる。半導体熱電変換は固体のゼーベック効果を利用した熱から電気への直接エネルギー変換技術で温度差を利用した小型分散型発電として注目を集めている。ゼーベック効果により生じた試料の熱起電力は電圧計で測定することが可能なため、多くの物性評価ではこの簡便な手法が用いられるが、試料とリード線材料の熱起電力の差が得られるため、トムソン効果の実験から熱起電力の絶対尺度を決定する必要がある。しかし、トムソン効果から材料単体のゼーベック係数を決定する手法は大変複雑で学術的蓄積が限られている。さらに、数少ない先行研究も物性評価としてアプローチされているものがほとんどで、計測手法の観点から研究は行われてこなかった。 このような研究背景のもと、本年度はトムソン係数評価装置を試作し、我々が独自に考案したAC-DC法により白金ワイヤのトムソン係数の温度依存性を評価した。試料の熱伝導率と寸法測定を行わず、はじめてトムソン係数の温度依存性の導出に成功した。さらに、温度依存性の測定結果と銅の室温での熱電能データを用いて、ケルビンの関係式からゼーベック係数を算出した結果、従来法と非常に良い一致を示すことが明らかになった。また、トムソン効果の評価は熱起電力測定とは異なり微少な温度測定であるため、試料の温度測定の影響の解析が精密評価には重要な課題のひとつである。そこで、熱電対を考慮したフーリエの法則による一次元熱伝導を行い、熱電対からの熱損失を含む厳密な解析解を導いた。特に新規手法では交流と直流の温度比を取ることで熱電対からの熱損失が補償されという有用な結果を得た。以上、本研究により、材料単体のゼーベック係数の評価に向けた重要なステップであるトムソン係数の温度依存性の新規評価手法が確立された。
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