研究課題/領域番号 |
25871198
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 独立行政法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
中村 秀司 独立行政法人産業技術総合研究所, 計測標準研究部門, 研究員 (70613991)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 量子電流標準 / 超伝導 / 単電子トランジスタ / 準粒子 / メゾスコピック系 / 精密測定 |
研究概要 |
本研究は超伝導ナノ構造を用いた量子電流標準の実現を目的として行われた。fA~μA オーダーの微小電流の正確な測定は、構造の微細化が進んだトランジスタの性能評価や医薬創薬分野、放射線に代表される検出器の高精度化に大きく貢献するものとして期待されている。正確な電流測定を担保する電流標準は、現在オームの法則を用いて実現されているが、微小な電流に対しては十分な精度を達成することが難しい。本研究では微小電流の正確な生成、測定を可能とすべく超伝導ナノ構造を用いて重要性の増しているfA~μA の電流標準の実現のためのデバイスの開発、およびその評価を行った。 本年度は、超伝導リードと常伝導アイランドを持つ単電子トランジスタ(SINISターンスタイル)による単電子ポンプの高精度化を行った。SINISターンスタイルは電極が超伝導ギャップを持つため、単電子ポンプのエラーの主要因となるコトンネリングが通常の単電子トランジスタに比べて抑制できるという利点をもつ。しかしながら一方で電磁場環境によって誘起される準粒子がリークカレントを増加させ、精確な電流生成を妨げるといった欠点も指摘されていた。我々は、独自の手法によってこの準粒子の影響を抑制させる手法を見出し、数値計算によってこの起源を解明した。 また、更にこのデバイスの性能を向上させるため微粒子を用いたSINISターンスタイルの作製、強磁性アイランドを持ったターンスタイル素子、一次元超伝導細線を用いたデバイスの作製もスタートさせ、量子電流標準実現に向けて着実に歩を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の最終目標は、超伝導ナノ構造を用いた新規デバイスを作製し、それを用いて定電流生成を行い量子電流標準を実現させることである。特に以下の二つのデバイス構造に着目して研究を行ってきた。 まず超伝導リードと常伝導アイランドを持つ単電子トランジスタ「SINISターンスタイル」と常伝導アイランドを強磁性アイランドに変更した「SIFISターンスタイル」である。この研究では、SINISターンスタイルの常伝導アイランドを強磁性アイランドに変えることで、単電子ポンプのエラー要因となるクーパーペアのコトンネリング、または電子とクーパーペアが関わる高次のトンネルプロセスを抑えることを目指している。この研究の過程において、単電子ポンプのエラー要因となっている準粒子のトンネルを抑制する新規手法を発見した。これは当初予想していない結果であり、計画以上の進展が見られた。また微粒子を用いることによって、SINISターンスタイルの持つチャージングエネルギーを上げることを試みた。チャージングエネルギーは単電子ポンプの精度に直接関係しているため、この研究はSINISターンスタイルによる単電子ポンプの高精度化に直接貢献する研究である。この研究を更に進めるため、物質材料研究機構と共同研究を立ち上げ研究協力体制を構築した。 次に「位相すべりを発現する超伝導一次元細線を用いた実験」では、素子作製段階であるが当初予定していた原子層堆積法を用いた細線作製方法に加えて、電子線描画法および超高真空蒸着法によっても細線の作製を並行して行っており順調に進行中である。以上のことから本研究は当初の計画以上に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の方針としてデバイス開発と測定系開発を並行して進めていく。まずデバイス開発に関しては、我々が新しく発見した手法を用いて常伝導アイランドを持つSINISターンスタイル素子の単電子ポンプを安定化し、その精度の評価を行う。つぎに常伝導アイランドを強磁性アイランドに変更することでクーパーペアのコトンネリング、電子とクーパーペアが関わる高次のトンネルプロセスを抑制しさらなる高精度化を図る。具体的には、超伝導体としてAl、Nbなどを用い、強磁性体としてFeNi,Co,Niなどを用いる予定である。絶縁体には、アルミナ、もしくはマグネシアを用いる。このサンプル作製には申請者が使用してきたサンプル構造を基に作製する。また同時に単電子ポンプの精度を決める要因の一つであるチャージングエネルギーを増加させるために、微粒子を用いたSINISターンスタイル、SIFISターンスタイルの作製を行い、さらなる高精度化を図る。デバイス作製が完了した後、ゲート電極に数百MHzの交流電流を印加することで単電子ポンプを行う。 測定系開発に関しては、10ナノ秒程度の時間分解をもつ測定系を立ち上げ、単電子ポンプのエラー要因に関して知見を得る。また単電子ポンプのエラーを実時間で測定し、エラーの訂正を行うことでアクティブにエラーを訂正することを行う。 これらのデバイス開発、測定系開発を並行して行うことで量子電流標準の実現に向けた研究を加速する。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初の計画では本年度は、SIFISターンスタイル素子、量子位相すべりを発現する一次元超伝導細線の作製、およびそのデバイスを評価する測定系の開発に注力する予定であった。しかしながら実験を行う過程において、予想しない成果を得たためにそれを解析、議論、発表する事を優先した。またその実験結果を踏まえて測定系を構築する必然性が生じたため、やむを得ず装置の購入を延期し、次年度使用額が生じた。 本年度得た成果を基にした測定系を構築するために使用する。具体的にはまずSIFISターンスタイル、量子位相すべりを発現する一次元量子細線作製のための微細加工に要する経費に使用する。またこれらデバイス駆動し定電流発生を行うための高周波部品および装置、具体的にはこれらデバイスの特性評価を行うための電流実時間測定系構築のための低温アンプ作製費用、超伝導同軸ケーブル、ADおよびDA変換ボード、FPGA回路の作製等に用いる。その他、学会参加、情報収集のための旅費、論文投稿費等に用いる予定である。
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