本研究は、超伝導ナノ構造を用いた量子電流標準の実現を目的として行われた。現在、電気的な測定に用いられる3つの基本的な物理量(抵抗・電圧・電流)の中で、抵抗および電圧の標準は量子力学的な現象に基づき実現されている一方で、電流に関しては古典的なオームの法則に基づき実現されている。オームの法則に基づいて実現される電流標準はミリアンペアといった電流領域においては小さな不確かさを持つ一方で、ナノアンペア、ピコアンペアといった微小な電流においては3桁程度の不確かさしか実現していない。本研究では、近年、医薬創薬分野、ガス検出器、半導体産業、放射線検出等で重要性の増している微小電流領域の電流標準を単一電子素子によって実現する試みである。電流は一秒間に通過する電子数で決まるため、電子数の精確な正業により不確かさの小さな電流を実現することができる。 本年度は、SINISターンスタイルを用いた単一電子ポンプに与える近接効果の影響について研究を行った。その結果、接合抵抗が低い素子においては、超伝導、常伝導界面において、超伝導ギャップの減少に伴う準粒子のトラップが起きることが分かった。またこれによりポンプ電流の精度が損なわれることも分かった。次にこの問題を解決するため、超伝導ギャップの大きな超伝導体を用いたSINISターンスタイル素子、SIFISターンスタイル素子の作製を目指して装置開発と素子作製をおこない、量子電流標準実に向けて着実に研究を進めた。
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