一流競技選手の筋の量やその分布状態を競技種目特性との関連から明らかすることは、アスリートとしての目標となる筋形態の競技種目別基準値や、競技種目に 相応しいトレーニング方法を明確化することにつながる。しかしながら、日本人一流競技選手を対象に、あらゆる競技種目における身体組成及び筋分布パターンの特徴を詳細に定量化したデータは、未だ十分に公表されておらず、研究として論文化されたものも数少ないのが現状である。そこで本研究では、一流競技選 手の身体組成並びに筋分布パターンの特徴について、競技種目差という観点から検討することを目的とし、以下2つの研究を行った。 【研究1】アスリートの身体組成を横断的・縦断的に正しく評価できる除脂肪量指数(除脂肪量/身長の2乗)及び脂肪量指数(脂肪量/身長の2乗)を用いて、男性トップアスリートの身体組成の競技種目差を検討した.その結果、身長による体格補正を加えたうえで身体組成を定量化した場合、瞬発力及び高い筋力・パワー発揮が競技力に直結する競技種目では除脂肪量が多く、スピード及び持久力に依存する競技種目では脂肪量が少ないことが示された。 【研究2】国内トップレベルのスピードスケート(短距離)選手、陸上短距離選手、自転車(トラック・短距離)選手(いずれも男性)を対象に、右大腿筋の連続横断画像をMRI法により取得し、大転子から大腿骨遠位端までの全スライスの筋横断面積を筋別に定量した。その結果、1)大腿四頭筋では、外側広筋および内側広筋の最大筋横断面積に競技種目差がみられること、2)ハムストリングスでは、最大筋横断面積が現れる部位に競技種目差がみられること、3)一般人のデータと比較すると、大腿四頭筋、ハムストリングス、内転筋において、その差が遠位部よりも近位部でより顕著にみられること、が明らかになった。
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