研究課題/領域番号 |
25871208
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 独立行政法人情報通信研究機構 |
研究代表者 |
岡本 拓磨 独立行政法人情報通信研究機構, ユニバーサルコミュニケーション研究所多感覚・評価研究室, 研究員 (10551567)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 音響信号処理 / サウンドスポット / アレイ信号処理 / スポット再生 / エリア再生 / スピーカアレイ / 音場再現 |
研究概要 |
本研究では,「目的音が聞こえるエリアと全く聞こえないエリア」を作るサウンドスポットシステムの高精度化を目的とする.2013年度の目的は,(1)スポット拡大のための,目的信号に最適なマスク信号を計算する方法の開発,および,(2)最適なマスク信号に合わせたスピーカ配置(数の削減)の検討であった.これまでの検討では,マスク信号は白色雑音などの意味のない音としていたが,マスク信号も意味のある信号である方が望ましい.そこで,(1)と(2)を同時に検討し,任意のマスク信号を採用できる信号処理とスピーカ配置を同時に考慮した以下3つの方法を提案した. 1つ目は,直線スピーカアレイを向かい合わせて配置し,マスク信号はそれぞれのアレイから逆位相で出力し,目的信号は2つのアレイの中間で同位相となるように出力する方式である.アレイ近傍ではマスク信号が聞こえるが,アレイの中心ではマスク信号は打ち消し合い,目的信号のみが聞こえる方式を提案した(音講論秋). 2つ目は,直線スピーカアレイ型音場再現の1つであるSpectral Division Methodに着目し,再現音場の音圧を目的信号領域を1,マスク信号領域を0と割り当て,各スピーカの再生信号を解析的に導出し,安定したフィルタでマルチスポット再生する方法を提案した(信学技法,ICASSP2014採択). 3つ目は,直線や円形の2次元スピーカアレイの近傍でのみ音が聞こえ,アレイから離れると聞こえなくなるエリア再生法である.この方法は,2次元アレイで3次元の音場再現をする際の次元ミスマッチに着目し,2次元アレイともう1つ追加のスピーカを設置し,基準位置での音圧を一致させ,それぞれを逆位相で再生することにより,基準位置で音圧が0となるエリア再生である(音講論春,信学技法). さらに,次年度の実環境での検討のための128チャネル分の直線スピーカアレイも実装した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
一番の理由は,当初の計画がマスク信号の改良であったことに対し,今年度の研究成果により音声や音楽などの任意のマスク信号を採用できる信号処理を開発したことである.これまではマスク信号の無相関性に着目した方法であるのに対し,今年度はアクティブノイズコントロール(ANC)や音場再現の概念を導入した「空間的に音圧が0となる領域」を形成する信号処理を3方法提案することができた. 1つ目の方法では,ANCのように音を逆位相で打ち消し合う方法と,打ち消し合う位置で逆に目的音を強調する方法を組み合わせたものである.さらに,2次元直線アレイであるために音色が変わってしまう問題にも対応したフィルタリングも施している. 2つ目の方法では,音場再現における再生音場の音圧を1と0に割り当て,各スピーカの再生信号を解析的に導出する.このような制御は従来の周波数領域の逆フィルタ制御でも可能であるが,フィルタが不安定になってしまう問題があった.それに対して提案法では,時空間周波数領域に音圧を直交展開して解析的に求めることにより,安定したフィルタとなり,高精度なスポット再生を実現している.この成果は,音響信号処理の中ではトップカンファレンスである(採択率も50%未満)ICASSP2014に見事採択された. 3つ目の方法では,音場再現では誤差になる部分を逆に用いたユニークな方法により,直線や円形アレイともう1つ配置したスピーカ信号の誤差をエリア再生として実現している.この成果も国内学会で既に発表済みであり,現在投稿論文を執筆中である. 上記の検討では全てにおいて直線スピーカアレイを用いているため,これらの理論検討に基づき,128チャネル分の直線スピーカアレイシステムを実装した.8チャンルごとに分解でき,横方向につなげれば直線アレイ,縦方向につなげれば平面アレイとして使用できる仕様としていることもポイントである.
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今後の研究の推進方策 |
1年目は数式ベースの理論展開および計算機シミュレーションでの検討であった.それに対して2年目は,実環境における性能評価や実環境での改善法を目的とする,実環境での検討には,1年目に作成した128チャネル分の直線スピーカアレイを用いる.また,円形アレイシステムについても,今年度の初期に実装を行う. 反射音が存在する場合,シミュレーションでの伝搬経路とは異なるため,性能が劣化することが予想される.まずは実装したシステムの性能を評価するために無響室での測定を行う.その上で,反射音の存在する実環境(防音室)での測定を行い,シミュレーションや無響室との結果と比較する.作成した信号を再生して特定の位置で録音を行うだけではなく,各スピーカからそれぞれの位置までのインパルス応答も測定する.これにより,直接音と反射音の関係がわかり,また,マスク信号を改良した場合でもスピーカ位置が変わらない場合は再測定の必要なしに評価できる.さらに,実際に人間が聞いた時の信号を解析するために,ダミーヘッド (=マネキン,現有設備)を用いた両耳での録音も行う.
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次年度の研究費の使用計画 |
2014年5月にイタリアで開催される国際会議ICASSP 2014に採択され,その参加費および旅費に割り当てるため. ICASSP 2014の参加費および旅費.
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