研究実績の概要 |
これまでに我々のグループでは、電極からブタノール発酵細菌Clostridium acetobutylicumへ電子を供給することで、代謝をスイッチし、ブタノール生産量を顕著に向上させることに成功している。しかし、この電子の供給による代謝スイッチのメカニズムは不明である。そこで、本年度はメカニズム解明を目的として、通電時と非通電時での代謝産物および遺伝子転写量の比較解析を網羅的に実施した。 C. acetobutylicum ATCC824の全ゲノム情報を基にデザインしたマイクロアレイを用いて、比較トランスクリプトーム解析を行ったところ、約10分という短時間の通電で、全遺伝子3848個のうち309個の遺伝子の転写量が増加、163個の遺伝子が減少していることが明らかとなった。これら増減した遺伝子の情報から、通電(電子の供給)により転写をON/OFFする複数の制御機構の存在が示唆された。これら制御機構により通電時には、①. ブタノール生産に関わる酵素・タンパク質(AdhE, CtfA, ThlA, iron transporter, Fedなど)の量・活性の増強につながる変化、②. ブタノール耐性の向上につながる膜構造の変化、③. ブタノール生産に直接関与しない物質(二次代謝産物、脂質、細胞壁など)生産の抑制が引き起こされた結果、ブタノール生産が促進されるメカニズムが推定された。一方、メタボローム解析から明らかとなった「通電による同化反応の抑制や、それによる炭素源由来の炭素・還元力をブタノール生産に集中するような代謝の変化」はトランスクリプトームの結果と一致するものであった。 これらの成果は、通電(電子の供給)による微生物代謝制御メカニズムを明らかにし、学術的に新規性の高いものであると共に、既存の発酵産業における有用物質生産を効率化できる新たな制御手法の可能性を提案するものである。
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