研究実績の概要 |
本研究では氷標的を用いて開放系における高速度衝突実験を実施し, 生成した気体の定量分析を行うことを目標としている. 太陽系に豊富に存在する水氷は天体衝突の際には超臨界水となり有機物や珪酸塩をも溶かすことが予想される.開放系で氷・岩石・有機物を混合した標的の衝突蒸発生成物を調べることで, 太陽系における水氷の衝撃挙動を明らかにすることができると期待できる. 昨年度は冷却ステージが完成し, 千葉工業大学惑星探査研究センターに設置されている二段式水素ガス銃システムに設置した. 液体窒素を用いた冷却テストを実施し, およそ-100℃まで実験チャンバの床面を冷却することが可能であることを確かめた. またこれまでにJAXA宇宙科学研究所の衝突銃システムのみにインストールされていた開放系実験における軽ガス銃実験の化学汚染の元であった加速ガスの遮断技術(申請者が宇宙研在籍時に確立した技術)を千葉工大の銃システムにも導入した. 金属標的を用いた試射を実施し, 化学汚染をほぼ完璧に防ぐことが可能であることを確かめた. 最終的に彗星模擬物質(氷・岩石・有機物の混合物)を用いた際の問題点は試料が不透明であるため, 内部の衝撃圧縮状態がわからず, 衝撃波伝播について非常に簡単だが危うい仮定を置かないと, 実験結果を理論モデルに組み込むことができないという問題があった. 定量性を高めるために数値衝突計算コードであるiSALEを導入し, 後解析スクリプトの整備を行った. 標的内部の最大衝撃圧分布を出力可能とした[Kurosawa et al., 2015]. 以上で述べたように実験の本格始動にはいたらなかったものの, 実験及び今後の解析の準備は完了している. 今年度は氷標的を用いた系統的な衝突実験を行っていく予定である.
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今後の研究の推進方策 |
「現在までの達成度」に記したとおり研究は遅れ気味であるが, 「研究実績の概要」に示した通り, 必要な準備は全て行うことができた. 今年度は各種氷標的に対して衝突速度を変化させた系統的な実験を行う予定である. 標的組成, 衝突速度について生成気体種及び, 生成量の依存性を調べる. 化学平衡計算コード「Lewis」と数値衝突計算コード「iSALE」を組み合わせて, 生成気体量を予測する理論モデルを作成し, 実験結果と比較する. 理論と実験が調和的な点, 不調和な点を洗い出し, 生成気体種, 量を決定するための最重要パラメータを決定することによって, 実験室の結果を天然天体衝突のスケールに適用するためのスケーリング則を導く予定である.
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