研究実績の概要 |
本研究は氷天体の衝突蒸発とそれに引き続く化学反応に焦点をあてている. 氷天体の衝突は太陽系の歴史を通じて起こる普遍的な現象である. 蒸発過程, 化学過程は衝突速度に強く依存する過程であり, その痕跡を読み解くことで太陽系の力学進化についての制約を与えることが可能になると期待できる. 千葉工業大学惑星探査研究センターに設置された二段式水素ガス銃システムの下流に水氷を含む標的を扱える開放系衝突蒸発・その場気相化学分析を行う実験系を構築した. 二段式水素ガス銃は, 任意の飛翔体を9 km/sまで加速可能である. 氷同士の天体衝突で達成される衝撃圧力を実験室内で再現できる理想的な装置であるが, 飛翔体加速ガスが実験チャンバに侵入し, 化学汚染を引き起こしてしまうという問題があった. 今回製作したシステムはこのような化学汚染ガスを遮断しつつ, 氷を含む標的から衝突によって発生した化学種を分析することを可能にする世界初の実験系である. 期間中に研究代表者が異動したことで装置の本格始動に遅れが生じてしまったが, 最終年度には水氷を用いた衝突実験を実施した. 装置は期待通りに動作し発生した水蒸気を主成分として検出することができ, 化学汚染ガスの影響を受けずに化学分析が可能であることを示すことができた. 水氷を標的に用いたのは, 衝突による水蒸気発生量を熱力学データを用いて理論的に推定することが可能であり, 実験結果と直接比較が可能なためである. iSALE shock physics codeによる数値衝突計算の出力を用いた熱力学的考察を行い, 衝突速度に対する水蒸気発生量の理論曲線を得た. 今後は衝突速度を変化させた実験を実施し, 理論曲線との比較を通じて構築した実験系の有用性を実証していく予定である. また開発した手法は無改造でより複雑な有機物などを含む彗星模擬氷に適用可能である.
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