研究課題
若手研究(B)
ヘム(鉄ポルフィリン錯体)は、微生物から動植物まで全ての生物において、様々な蛋白質の活性中心として存在し、重要な生理機能を担う生命維持に必須の生理活性物質である。近年、細胞内におけるヘム濃度の恒常性維持に関する研究は、微生物、酵母、哺乳類が有するシステムについて、国内のみならず海外からも幾つか報告例がある。しかし、細胞間や組織間におけるヘムの輸送や恒常性維持については、関連する分子が特定されておらず、全く未解明であった。本研究では、ヘム栄養要求生物である線虫C. elegansの遺伝子ノックアウト実験により近年同定された「細胞間ヘムシャペロンHRG-3」を研究対象とし、その構造機能解析により、細胞間ヘム輸送の分子機構解明を目的とした。本年度は、大腸菌を用いた組換えHRG-3の調製法確立とヘムの結合様式の検討を行った。HRG-3は低分子量の可溶性タンパク質である。この組換え体を大腸菌内で発現する際、タンパク質分解を受けたり、封入体として沈殿してしまう傾向が見られた。様々な発現系を構築し、タンパク質の発現条件を検討した結果、インテインタグを付加することにより、分解されず、かつ可溶性タンパク質として発現することができた。単離後、インテインタグを切断し、各種カラムクロマトグラフィーにより高純度な組換えHRG-3を調製する方法を確立した。精製標品にヘムは含まれていなかったが、ヘムを添加し、可視吸収スペクトルを測定すると、ヘムが結合した。そのスペクトルは、これまでのヘムタンパク質には見られない挙動を示した。今後は、共鳴ラマン分光法などによりヘムの配位環境を調べる。また、HRG-3は相同なタンパク質が存在せず、これまでにない立体構造を有する可能性がある。現在、X線結晶構造解析によりHRG-3の立体構造を解明するために、ヘム結合型/非結合型HRG-3の結晶化を行っている。
2: おおむね順調に進展している
平成25年度の研究計画として、研究対象タンパク質HRG-3の調製、ヘムの結合評価、立体構造解明をあげていた。研究実績概要のとおり、大腸菌組換えと各種カラムクロマトグラフィーにより、HRG-3の調製方法を確立できた。また、精製標品がヘムを結合できることも確認し、ヘム結合型/非結合型での結晶化に向けて研究を進められているため、すべて順調に行うことができたと考えている。
平成26年度は、HRG-3の構造解析を中心に研究を進める。X線結晶構造解析に適した単結晶を調製できなかった場合は、NMRなど別の手法による構造解析を行う。その後、HRG-3のヘムシャペロンとしての機能を調べるために、HRG-3からヘムを受け取るタンパク質を調製する。HRG-3とそのタンパク質間でのヘムの授受機構について、生化学的手法や分光法により検討していく予定である。
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10.1016/j.jinorgbio.2014.02.011.
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