看護や介護の現場では、筋や骨からの痛みに遭遇することが非常に多い。痛みを緩和させる手段のひとつとして、軽微な皮膚刺激(タッチ)などが用いられるが、その作用機序は明らかになっていない。体性感覚刺激は意識や情動を誘発するため、麻酔により意識を喪失させて行う動物実験が有用である。本研究課題においては、骨格筋への侵害刺激で生じる心拍数の変化を指標に、麻酔ラットで骨格筋の痛みを評価する実験モデルを確立した。 前年度までに、(1)骨格筋に対する押圧刺激は心拍数を変化(増加または減少)させること、(2)心拍数の変化は心臓交感神経活動の変化により生じること、(3)心拍数および心臓交感神経活動の変化の方向性(増加または減少)は、押圧刺激前の心臓交感神経のトーヌスレベルに依存することを見いだした。 本年度は、筋は通常痛みを起こしにくい組織であることを考慮に入れ、炎症で感作した筋に押圧刺激を与え、心臓交感神経活動および心拍数への影響を検討した。筋に炎症を誘発する目的で、実験前日に下腿に起炎物質(3%λ-カラギーナン溶液)を投与した。対照として生理食塩水を対側下腿に投与した。その結果、炎症側・非炎症側いずれの下腿に対する押圧刺激でも、心拍数および心臓交感神経活動は増加または減少し、変化の方向性は刺激前の心臓交感神経のトーヌスレベルに依存していた。しかし、炎症側刺激で生じる心臓交感神経活動および心拍数の増加は、対照(非炎症)側刺激による変化よりも大きかった。 以上の結果より、急性炎症が生じた骨格筋では押圧刺激時に生じる心臓交感神経活動の増加が増強し、心拍数増加が増大することが明らかになった。本研究の成果は、自律神経活動を指標にすることにより骨格筋の痛みに対するタッチやその他の介入による鎮痛効果を評価することが可能であることを示唆する。
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