研究課題
若手研究(B)
初年度は研究の基礎となる海底堆積物の微細構造ならびに海底下の微生物を含む有機物をサブミクロンスケールで観察するための試料調製法の開発に従事した.本研究では,生物学分野で用いられている電子顕微鏡観察の試料調製法(化学固定法,電子染色法,樹脂包埋法)を柔かい海底堆積物の試料調製に適用できるように改良した試料調製手法を確立した.海底堆積物は,統合国際深海掘削計画の航海で掘削採取されたニュージーランド南島東方沖カンタベリー海盆の大陸棚・大陸斜面堆積物ならびに南太平洋環流域の堆積物など,様々な堆積環境で形成された堆積物を用いた.処理した試料を,走査電子顕微鏡とマイクロフォーカスX線CTにより観察した結果,様々な種類の未固結海底堆積物について微細構造の攪乱を抑えた観察が可能になると共に,海底下の生物由来物質(有機物や微生物)の分布を観察することが可能となった.この試料調製手法について,論文をまとめLimnology and Oceanography: Methods誌に投稿した.また,マイクロフォーカスX線CTの測定条件を検討し,X線CT画像から孔隙率を求める画像処理手法について検討した.この検討結果は,地下深部環境の高温・高圧条件を再現可能な実験装置で処理した砂および石炭試料のX線CT画像処理に適用した.結果の一部をFrontiers in Microbiology誌にて報告した(Ohtomo et al., 2013).
2: おおむね順調に進展している
当初の計画通り,初年度に研究の基礎となる生物学分野の樹脂包埋法を改良した柔かい海底堆積物試料の調製法を確立し,走査電子顕微鏡やマイクロフォーカスX線CTを利用した試料観察手法を確立した.
まず,微生物を除去した堆積物と既知の微生物を混ぜた堆積物を標準試料として,海底地下環境と同程度の温度・圧力に晒した試料を作成する.それを初年度に構築した試料調製法で処理し,電顕観察を行い,堆積物中で微生物がどのように分布するか,観察を行う.その後,海底地下から掘削された試料を用いて,天然の地下環境でどのように微生物が生息するか,海底地下環境と照らし合わせながら,生息実態を明らかにする.
本研究は多量の試料を処理し,走査電子顕微鏡で観察する必要がある.しかしながら,試料調製法の確立に時間を要したため,多量の試料を同時観察可能な新しい試料ホルダの開発に至らず,予算を使用できなかった.未使用額は走査電子顕微鏡用の新しい試料ホルダの開発に使用する.新しい試料ホルダを利用し,多量の試料観察を進める.
すべて 2013
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (1件)
Frontiers in Microbiology
巻: 4 ページ: 361
10.3389/fmicb.2013.00361