本研究の目的は、近代の「図案」および「図案家」について同時代の文献資料から広範囲に関連事項を抽出し、データベース化することにより、「工芸」や「デザイン」といった既存の枠組みにとらわれない、包括的な図案に関する基盤作りを目指し、今後の図案研究に資する新たな視点を提示することにある。従来の図案研究においては、東京の動向が中心となることが多かったが、一方の本研究では、陶芸や染織といった各分野ごとの垣根を越えた工芸家たちの交流が盛んに行われ、美術と産業が密接に関わっていた近代の京都という地域性に着目する点が特質である。京都を中心とした関西圏の図案をめぐる動向についての調査を通して、「図案」の重要性が当時の美術工芸界において広く共有されていたことが、さまざまな事例の積み重ねによって次第に明らかになってきた。 文献調査としては、前年度に引き続き図書館や美術館等で所蔵されている美術雑誌を中心に調査し、さらに京都市内でそれぞれ織物製造、漆器製造、古美術販売、美術印刷に関わっていた会社や個人宅での資料調査および聞き取り調査を行った。これまであまりその存在を知られていなかった京都の美術雑誌や新聞の存在を確認できたほか、日記や写真、下絵類などの一次資料を部分的にデータベースに反映した。また、これまでの文献調査と蓄積したデータの成果をもとに、図案家として、また陶芸家として主に京都で活動した澤田宗山(蒹堂)の図案制作に関する調査結果を、論文の形で発表した。
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