心筋細胞を用いた心不全の再生治療法においては、組織工学的手法により厚みを持った3次元の細胞組織体を作製し患部に移植する方法が有効であると考えられているが、組織体内部における酸素・栄養供給の不足による壊死が原因となり、十分な心筋再生効果は示されていない。一方、我々は培養細胞を鋳型基材と組み合わせて皮下に埋入するだけで、生体内において基材周囲を被覆するコラーゲン性組織と培養細胞が栄養血管網の構築を伴い一体組織化した「生きた」移植体が鋳型に沿った所望形状で得られる新規の体内バイオプロセスを開発した。本研究では、このような生体内バイオプロセスを心筋細胞に応用することで、栄養血管や導管血管構造を有する心筋組織体を作製し心筋再生医療に供することを目的とした。
平成25年度には、心筋細胞を円筒形のアクリル材と組み合わせてラットの皮下に埋入することで、管状の心筋様組織体が作製できた。一方で、この組織体の壁は毛細血管網が張り巡らされた約200~300 μm厚の心筋マーカー陽性細胞が点在する層構造を有していたが、それらの拍動性は極めて低く、心機能を回復し得る移植体としては不十分であることが分かった。その原因としては、心筋細胞の密度が低いことが考えられた。 そこで平成26年度は発想を転換し、低酸素下でも高い増殖活性と分化能を有する脂肪由来の間葉系幹細胞(ADSC)を凝集塊として高密に基材に塗布することにより、体内でそれらを心筋細胞に分化させることで高純度の心筋組織を作製することにした。そこで、細胞への遺伝子導入と自己組織化を誘導するポリマー(通称:CAT)を開発した。その結果、CATとGFP遺伝子の混合液をコートした培養皿に単にADSCを播種するだけで、播種翌日に50%以上の割合でGFP遺伝子が導入されたADSC凝集塊を得ることに成功した。心筋への分化誘導遺伝子をADSC凝集塊に導入すれば、体内で高純度の心筋組織が作製できると期待される。
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