研究課題
本研究の目的は超高感度な質量解析装置を使ったプロテオミクスにより転移性乳癌におけるTGF-betaの遺伝子発現制御とタンパク活性化制御の両視点からTGF-betaの癌転移促進作用の分子機序を明らかにすることである。TGF-betaシグナル関連因子を選別するため、異種移植マウス転移性乳癌モデル(4T1細胞株)にTGF-beta阻害剤を投与し、転移巣より精製したタンパク質のプロテオーム解析を行った。ショットガン解析(Thermofisher scientific社、LTQ-Orbitrap Velos)を用いてトリプシン消化したペプチドに安定同位体標識(iTRAQ法)を導入し、TGF-beta阻害剤投与群(SB-431542/DMSO-Corn Oil)とコントロール群(DMSO-Corn Oil)を比較相対定量解析を行った。マウス4T1細胞の乳腺移植からの転移はコントロール群比べ、TGF-beta阻害剤で数および大きさに有意な抑制が見られた。各々の転移巣より抽出したタンパク質をプロテオーム分析した結果、多変量解析にて6,694タンパク質(36,239ペプチド)が同定され、そのうち4,531タンパク質が発現に有意な差異が見られ、複数のタンパク質が乳癌の転移に関与する因子と考えられた。また、Ingenuity Pathway analysisによる統計学的処理を行った結果、Eifシグナルタンパク質群が有意に濃縮していることが分かった。その後、MS解析の結果を検証するためにタンパク質に発現量をウエスタンブロッティング法およびmRNAレベルで確認を行った。本研究成果は転移性癌に対するTGF-beta阻害剤の薬効予測を可能にするマーカーの発見となった。
2: おおむね順調に進展している
本研究では転移巣から採取した少量のサンプルから超高感度な定量解析を行い、新規のTGFbetaシグナル分子となるタンパク質を同定した。申請者は現在在籍する大阪市立大学に移転後すぐに論文作成に着手し、今月PLoS Oneに投稿しアクセプトされた。
リン酸化タンパク質濃縮法(IMAC法)を用いたリン酸化プロテオミクスの解析は転移巣からのタンパク質量が少なく、解析に至っていない。今後、実験マウスの匹数を増やし、再度サンプル調整を行った後、ショットガン解析を行う。さらに、リン酸化タンパク質の発現量、発現パターンと転移、悪性度との相関性を検討する予定である。
論文の掲載料と継続している研究に関わる研究費を今年度予算として延期しました。
論文掲載料、リン酸化プロテオームおよびマウス実験にかかる経費
すべて 2014
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件)
Cancer Res.
巻: 74 ページ: 6139-6149
10.1158/0008-5472.
J Histochem Cytochem
巻: 62 ページ: 846-883
10.1369/0022155414550163
Breast Cancer Research
巻: 16 ページ: R57
10.1186/bcr3668