研究課題/領域番号 |
25871242
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 独立行政法人医薬基盤研究所 |
研究代表者 |
橋口 一成 独立行政法人医薬基盤研究所, 創薬基盤研究部, 研究員 (80400414)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ATM / キナーゼ / リン酸化 / シグナル伝達 / 活性酸素 / 酸化ストレス |
研究概要 |
本研究では超高感度プロテオーム解析システムにより、活性酸素依存的に活性化するATMキナーゼのシグナル伝達経路を明らかにすることを目指している。本研究で得られる新規経路と既知の活性酸素シグナル経路との情報統合から得られる知見は、生体がもつ活性酸素応答機構の包括的理解に寄与することが強く期待できる。 平成25年度は主として、1) 野生型、変異型ATM発現細胞株の構築、2) 大規模プロテオーム解析法の改良、3) 抗体によるATM基質のリン酸化検出、を行った。 1)について、FLAGタグ融合ATM発現プラスミドを培養細胞株に導入したところ、内在性ATMと比較してFLAG-ATMの発現量が非常に低く、異なる発現システムの必要性が示唆された。2)については、プロテオームサンプル調製における前分画法として、高pH緩衝液を用いた逆相クロマトグラフィーによるトリプシン消化物分画法の開発を行い、全プロテオーム解析では7,000以上のタンパク質同定、リン酸化プロテオーム解析では25,000以上のリン酸化部位の同定に成功した。3)では、ATM基質上のリン酸化モチーフに対するモノクローナル抗体を用いたウエスタンブロット解析を行った。0.01 mg/mlブレオマイシン処理(DNA二本鎖切断誘発)ではATM(自己リン酸化)、Chk2(ATM基質)及びH2AX(DNA二本鎖切断マーカー)のリン酸化が、0.25 mM過酸化水素処理(酸化ストレス付与)ではATM及びChk2のみのリン酸化が期待された通りに観られた。この条件下で、過酸化水素処理ではブレオマイシン処理と比較して、有意に少ないATM基質のリン酸化が検出された。このことから同程度のATM活性化状態下でも、酸化ストレス処理によるリン酸化シグナル経路はDNA二本鎖切断時と比較して大いに異なる動態によって制御されていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の予定では、プロテオーム解析に用いる発現細胞株の構築及びそれらを用いたプロテオーム解析の実施までが平成25年度の計画であったが、発現細胞株の構築の難航により計画が遅れている。本研究ではFLAGタグ融合タンパク質として、野生型及び変異型の外来ATMを発現する細胞株の利用が必須であるが、生理的条件を考えた上で、それらの発現量は内在性ATMタンパク質と同程度である必要性がある。そこで、導入プラスミドからの発現とは異なる発現システムの構築の立案に至った。細胞株樹立と並行して、プロテオーム解析法の改良やモチーフ抗体による基質リン酸化の検出を行ったが、これらの技術開発や異なるアプローチでのリン酸化タンパク質の検出法に目処がついた点は、平成26年度の研究計画の推進に大いに役立つことが強く期待される。
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今後の研究の推進方策 |
細胞株の樹立として、CRISPR/Casシステムの導入を行う。これにより、マウス細胞でのnull細胞と同様に、ヒト培養細胞でのATM-null細胞の樹立が期待される。さらにゲノム中のATM遺伝子領域に、N末端FLAGタグの挿入、及び点突然変異の導入を行い、細胞株の樹立を行っている。樹立が完了次第、これら細胞株を用いて、当初計画のプロテオーム解析を実施する。また多段階の経時変化を観るために、6-plexもしくは10-plexのTMTラベル法(平成25年度に検討済み)を用いてプロテオームサンプル解析のハイスループット化を図る。また、モチーフ抗体による免疫沈降物の定量的な質量分析も行い、ショットガンプロテオーム解析よりもさらに高感度な基質リン酸化の経時変化を解析する予定である。
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