現在までに部位特異的組換え酵素(Cre)を、核酸を酵素キャリアとする事で麹菌細胞内に直接導入することに成功し、ターゲット配列(loxP)間に挟まれたマーカー遺伝子等を、従来より簡便に除去できる方法を開発している。本研究では、Creを麹菌細胞内に直接導入し、機能させるために核酸が酵素キャリアとしてなぜ必要なのかを明らかにし、導入酵素をCreだけでなく、人工ヌクレアーゼ(TALEN)でも応用が可能かに挑戦することで、有用菌株造成技術の開発を目指している。酵素キャリアの種類について検討を行った結果、核酸(DNA)だけでなく、rRNAや核酸との親和性が高いヘパリンも酵素キャリアとして機能することを見出した。Creの酵素キャリア検討時に、酵素キャリアを用いた時と比べて効率はかなり低くなるが、Cre単独でもマーカー遺伝子の回収が可能であることが明らかとなった。そこでCre単独で、より効率よく導入できる方法を探索した結果、Hisタグ付きのCreにおいて、市販Creやタグ無しのCreより若干効率が良くなること、また、酵素濃度を高く(16倍以上)することで、高効率で導入されることが明らかとなった。 一方、人工ヌクレアーゼ、TALENでの検討も行った。最初に、糸状菌用TALEN発現プラスミドを構築し、一過的発現により、麹菌においてもTALENによるゲノム編集が可能である事を確認した。続いて、大腸菌を用いて TALENの発現及び精製を試みた。その結果、微量であるが、精製TALENsを得ることが出来た。そこで、精製TALEN単独及び核酸等のキャリアを用いて、麹菌に直接導入実験を行った所、残念ながらゲノム編集株を見出すことが出来なかった。今後は、Creで得られたデータを元に、精製TALEN量を増加させる、または、市販Cas9を用いて直接導入によるゲノム編集が行えるかを検討していきたい。
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