本研究は,目と手から得られる2種類の空間情報を強調させる必要のある状況において,目と手に固有の空間貯蔵システムがどのように連携して情報を保持しているのかを明らかにするために実験的な検討を行った。とくに,従来の研究では,視覚が身体感覚よりも空間位置の特定に優れているとし,視覚に頼った情報の保持が行われている可能性が指摘されている。その一方で,目と手はそれぞれ空間情報を保持するのに有効な器官であることも指摘されている。これらのいずれが正しいのかは未だ不明な点が多いことから,目と手が連携する状況において,目と手のそれぞれがどの程度情報の保持に貢献しているのかを実験的に検討することとした。 この目的を達成するために,タッチモニタを新たに導入した。タッチモニタは,目と手の両方によって一つの空間座標を記憶することを求める実験状況を容易に設定することを可能にするとともに,手がモニタに触れた空間位置を全て記録することを可能にした。とくに,後者の手が触れた座標位置の取得においては,目で見た情報を正確に手で触れることができずにオーバーシュートやアンダーシュートする試行があった。こうした試行は,目で見た情報と手で触れた情報が食い違っている可能性があるため,取得した座標を照合の上分析から除外した。さらに,EOG法による眼球運動測定装置の改良を行うことで,記銘時,遅延時間中,想起時の目の動きを水平方向と垂直方向から測定した。 こうした測定環境の下,目と手が連携して取り込んだ空間情報の保持に,目と手がどのように関与しているのかを2重課題法を用いた行動実験を行った。その結果,目と手の両方が同じように情報の保持に有効に機能していることが分かった。このことから,目と手の両方を連携しながら空間情報を記憶する場合,目と手はいずれか一方に頼ることなく両者が同じように協調して情報を保持している可能性が考えられた。
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