研究実績の概要 |
本研究の目的は,関東大震災前後における東京市立図書館(東京都立図書館の前身)の図書館構想やサービスの変化について,当時の社会情勢や東京市の行財政,教育行政との関連を含めた文献調査を行い,考察を加えることにある。 関東大震災前の1915年に東京市立図書館は組織改正を行い,日比谷図書館を中心とした市立図書館網が形成され,図書館は統一的に運営されるようになった。平成26年度は組織改正により図書館の統一的運営が実現する背景と組織改正が図書館サービスや業務改善に果たした意義を解明し,再評価を行った。1914年に東京市では市会内部の政変を機に教育事務事業監査が実施され,図書館は経費節減と経営効率化に関する改善を求められた。組織改正を実施することにより,市立図書館は市の財政緊縮化方針に応え,同時に図書館サービスの充実を実現した。組織改正の実施は,東京市には図書館運営経費の節減,図書館にはシステム構築による新たなサービスの創出,市民には身近で利用しやすいサービスの享受という効果をもたらしたことが明らかになった。この成果は,論文として三田図書館・情報学会誌に投稿し受理された。 東京市立図書館は1923年の関東大震災で甚大な被害を受けたものの,復旧復興を経て震災前よりもさらに充実した組織を持つようになった。しかし,震災後1931年にこの組織は解体された。本研究を通して,大正期の東京市立図書館計画についての一次資料が存在することが判明したので,震災前後の市立図書館構想について比較検討を行った。当時の新聞や雑誌類をあわせて検討した結果,東京市立図書館が震災前の1921年頃から再度方針を転換し,図書館の拡張を図ったこと,震災後に社会的な変化が生じたにもかかわらず,それは継続されていたことが明らかになった。成果は学会誌に投稿することを予定しており,今後もさらに研究を深めていきたいと考えている。
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