本研究では生体の運動制御モデルを基盤に、フィードバック情報が与える運動学習への効果を統合的に扱うことで機能回復モデルを構築し、効率的かつ最適な上肢運動の機能回復支援システム、およびリハビリテーションの開発を目的とする。 本年度は、そのための基礎的研究として、人差し指と親指によって発生力を制御し、物体を保持する精密把握のモデル化を行うことで、数値シミュレーションおよび計測値との比較を行うことを計画していた。しかし、手指の機構を上肢と同様に捉えることに問題があることが判明したため、手指動作のモデル化の前に、手指動作と腕運動の類似性、または差異について明確にしておく必要があるとの結論に至った。そこで、手指動作に加え、腕の運動にまで研究対象を拡大し、その制御機構の比較検討を行うように研究計画の変更を行った。今年度の主な成果は、(1)数値実験による上肢運動中の筋活動の再現、(2)運動制御における至適方向の機能的役割の検討、ならびに(3)脳卒中による上肢運動機能障害および回復過程のモデル化、の3点となる。 (1)では、運動中に生じる特徴的な筋活動パターンが、位置、速度および力の項で構成される評価関数を最適化することで再現されることを示した。(2)では、一次運動野はフィードバック制御におけるフィードバックゲインとして機能していると考えられ、一次運動野の神経細胞が有する至適方向は、筋骨格系システムにおいて、ある種の最適化を行った結果として観測されるものであることが示唆された。そして、(3)では、脳卒中による上肢の運動麻痺、およびリハビリテーションによる回復過程のモデル化を行い、脳の可塑性に基づいた観点から、ロボットを利用したリハビリテーションが有効であることを示した。 以上の研究成果に基づき、今後は、脳卒中片麻痺等の運動機能障害を対象に、至適方向に基づいたリハビリテーションの開発を行う予定である。
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